EU イギリス 国家・民族
イギリス「EU離脱」をめぐる大混乱の実情~「タブー」に触れ、怒鳴り合う政治家たち
戦争、ヒトラー、DIY不景気…
重大な国民投票だが、離脱派・残留派の議論はあまりに乱暴なものだ…〔PHOTO〕iStock


文/小林恭子(在英ジャーナリスト)

欧州連合(EU)の将来を揺るがしかねない一つの審判が、今月末、英国で下される。EU残留か離脱かを決める国民投票だ。

世論調査では両派の支持率はほぼ拮抗し、論争がデッドヒート化している。離脱すれば「戦争が起きる」と残留派キャメロン首相が警告する一方で、離脱派からはEUをヒトラーと同一視するかのような発言が飛び出る。

決め手は経済か、それとも移民問題か。情報の洪水に国民は「誰を信じたらいいのか分からない」状態だ。6月23日の投票日まで3週間を切った英国の様子を伝えたい。

英国にとってEUは「遠い存在」

そもそも、なぜEU加盟についての国民投票を行うのだろうか?

現在のEUは28カ国が加盟する、欧州内の政治・経済上のパートナーシップだ。第2次世界大戦後、2度と欧州内で戦争を起こさないようにとの思いから欧州統合への道が生まれ、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC、1952年)が発足する。これが欧州経済共同体(EEC、1958年)、欧州諸共同体(EC、1967年)、さらにはEU(1993年)として発展してきた。

EU域内のGDPは18兆ドルを超え、人口は約5億人。域内の19カ国が単一通貨ユーロを導入し、国境検査を受けずに行き来できる「シェンゲン協定」にはEU外の国も含めて26カ国が加入している。

しかし、英国はこの協定に参加しておらず、ユーロも導入していない。

元々、英国にとって、英仏海峡を隔てた「欧州」とは心理的にやや遠い存在である。廉価の航空運賃を利用して頻繁に旅行に出かけ、住居を買って住む人がいても、である。

第1次および第2次大戦ではドイツと戦闘を構え、それ以前にはフランスとの長い戦いがあった。今でこそ域内での戦争は考えられないが、現在でも英国からすれば「欧州」とは自分たちのことではなく、あくまでも「外国」という感覚だ。

また、かつての大英帝国の記憶があるために、「自力でやっていける」という自負心が強い。

決して親欧州ではない英国がEUの前身ECに加盟したのは1973年だ。加盟を維持するかどうかの国民投票が1975年に行われている。結果は「加盟維持」となったものの、当時と比べて状況は大きく様変わりした。75年当時の加盟国は英国を含めて9つで総人口は約2億5000万人。人、モノ、サービスが自由に行き来する単一市場に参加するという経済的な目的が明確だった。

その後、マーストリヒト条約(1992年)を経て発足したEUは政治統合に向けて大きく動き出す。EUレベルでの決定事項が商習慣、雇用、司法、環境など生活の様々な分野に影響を及ぼすようになった。

多くの英国民がいわば「仮想敵」として認識しているのがEUの執行機関「欧州委員会」だ。その本拠地があるブリュッセルは、欧州委員会、または「不当な規則を押し付けてくる組織」の別名だ。