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安倍政権の黒幕!? 右派団体「日本会議」とは何か
その起源から動員力の秘密まで
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安倍政権の黒幕「日本会議」とは何か

いま話題の『日本会議の研究』(菅野完著・扶桑社新書)をお読みになったろうか。もしまだなら、ご一読をお勧めしたい。こんなに興味深い本は、そう滅多にあるものではない。

本の内容は書名通り。安倍政権の“黒幕”と噂される右派団体・日本会議とは何かという疑問にわかりやすく応えている。

私も10年前に日本会議を取材した。結果はこの連載でも述べたので覚えておられる方もあるだろう(gendai.ismedia.jp/articles/-/44029)。著者の菅野さんは丹念な取材でそれをさらに掘り下げ、現在の日本会議の姿を赤裸々に描いてみせてくれている。

たとえば一昨年秋にできた「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、新憲法制定を求める1000万人署名をめざす団体だが、一般の人には素性がよくつかめない。

が、菅野さんは単純明快な方法でその素性を暴く。会の共同代表3人のうち2人は日本会議の名誉会長や会長。会の事務局長も日本会議事務総長で、その他の役員もほとんど重複している。だから、日本会議の別働団体にほかならない、と。

これは大事な指摘だ。なぜなら日本会議は歴史教科書の採択など個別のテーマごとに別働団体を作り、草の根の運動のような形をとって政治に働きかけ、目的を達成してきたからだ。

彼らが今年の参院選後に勝負をかける「改憲」では、前述の「国民の会」のほか「新憲法研究会」や「『二十一世紀の日本と憲法』有識者懇談会」(通称「民間憲法臨調」)が作られている。

これらの団体は〈特段、日本会議であることは名乗らないものの、日本会議系団体であることを隠しもしない。あくまでも別働部隊として、個別にシンポジウムを開催したり署名活動を行ったり、街頭演説を行ったりと実にさまざまなチャンネルで、自分たちの主張を繰り返し展開している〉と菅野さんは言う。

私は学生時代に垣間見た左翼運動の手法を思い出す。セクト色を表に出さず、ソフトな装いの大衆団体を作り、その活動を通じてより多くのシンパや党員予備軍の獲得を狙っていた。日本会議の別働団体方式の狙いも推して知るべしだろう。

動員力のヒミツ

菅野さんの指摘で、さらに大事なのは日本会議の地方活動の活発さだ。

日本会議は地方支部などを通じて地方議会の議員に盛んに働きかけている。昨年1月段階で「憲法改正の早期実現を求める地方議会決議」を行った地方議会は25府県議会・36市区町村議会にのぼった。

実は、こうした地方議会決議の積み重ねもかつては左翼のお家芸だった。中央を動かすには地方から、という戦略の有効性を日本会議は熟知している。さらに踏み込めば、日本会議は「農村が都市を包囲する」という毛沢東戦略に極めて忠実な団体と言っていいだろう。

菅野さんは〈しかし日本会議の運動方法は、その手法よりも、その規模の大きさと執拗さにこそ特色がある。日本会議や関連団体が実施するイベントには、毎回、多数の参加者がおり、各種団体が連日あちこちでさまざまなイベントを開催している。(略)この動員力こそが、日本会議の特徴だ〉と語る。

では、その動員力の秘密は何だろう。菅野さんは地方での請願や署名集めなど最前線を担っているのは、各種の宗教団体が動員した運動員たちだと言う。

佛所護念会、霊友会、キリストの幕屋、神社本庁、天台宗、国柱会、崇教真光……神道系、仏教系など、実にさまざまな教団が日本会議に加わっている。

これはいわば宗教右翼の統一戦線だ。日本の右翼の伝統は少数精鋭主義(例えば「一人一殺」の血盟団、三島由紀夫の楯の会)で、左翼のように統一戦線を組む発想はない。ところが日本会議はちがう。その運動論においてはどこまでも左翼を模倣する奇妙な性格の団体なのである。

それにしてもなぜ、教義のちがう各教団が一つの団体のなかに同居できるのか。その結集軸となっているものは何だろう。著者は1997年の日本会議結成までの経緯をたどりながらその謎を解き明かしていく。

日本会議の中枢=日青協

日本会議の事務局は「日本青年協議会」(日青協)という右翼団体だ。'70年安保のころ誕生した民族派学生運動に源流を持ち、運動の担い手は、生長の家の創始者・谷口雅春(1893~1985年)の皇国思想を奉じる学生信徒たちだった。

実は菅野さんの仕事の最大の意義は、日本会議の中枢=日青協という事実をさまざまなデータで裏付けたことだ。そして半世紀前に形成された日青協人脈が安倍政権の周囲に張り巡らされていることを具体的に立証したことにある。

まず日青協会長の椛島有三氏。彼は'70年安保の前に長崎大で左翼学生の手からキャンパスを取り戻したことで民族派のヒーローとなり、後に日本会議事務総長として運動の中心になる。

日青協副代表だった衛藤晟一参院議員は安倍首相側近で、日青協とのパイプ役になり、生長の家青年会の幹部だった伊藤哲夫・日本政策研究センター代表は安倍首相の有力ブレーンとして知られるようになる。

そして生長の家系のサークル団体「全日本学生文化会議」の結成大会(1969年)実行委員長だった百地章氏。彼は菅官房長官が挙げた「集団的自衛権の行使容認を合憲とする」3人の憲法学者の1人となる。

きりがないからこの辺でやめる。日青協人脈が日本会議の中核をなし、安倍政権に深く食い込んでいることがわかってもらえれば、それで十分だ。菅野さんは豊富なデータを使って説得力のある論考を展開している。

ただ気になる点もある。それは安倍政権の反動ぶりもヘイトスピーチの嵐も『社会全体の右傾化』がもたらしたのではなく〈一部の人々が長年にわたって続けてきた『市民運動』の結実なのではないか?〉という著者の問いの立て方である。

私はこの種の問いかけには違和感がある。なぜなら、そう考えたとたん陰謀論の罠に陥る危険が生じるからだ。社会的な事象の要因は複合的で、答えは一つではない。老婆心ながら付け加えさせていただく。

『週刊現代』2016年6月11日号より