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日本人を苦しめる「一億総ランキング社会」という病
下り坂のこの国で大らかに生きるには?
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日本人は、ひたすら坂を上ることばかり考えてきた。だが実は、坂道は上りよりも下りのほうがきつい。足をすべらせて転げ落ちないために、どう心構えをすべきか。「そろそろと」がキーワードだ。平田オリザ氏と内田樹氏が語り合う。

若者は絶望している

内田樹 平田さんの新刊『下り坂をそろそろと下る』は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』の書き出しを模した「まことに小さな国が、衰退期をむかえようとしている」の一文から始まります。原文は「衰退期」ではなく「開化期」ですが、これを読んで背筋が寒くなりました。

平田オリザ なるべく多くの人に話題にしてもらいたくて、有名な司馬さんの文章を引用したんです。

内田 「警世の書」は巷にあふれていますが、これほど穏やかな文体のものは読んだことがありません。だからこそ怖い。平田さんの静かな口調からは逆に、「もう崖っぷちまで来ている」という危機感が伝わってきます。

平田 多かれ少なかれ、日本人は「もう日本は経済成長しない」と感づいています。この事実を受け入れることは辛いし、寂しいことですから、耐えきれずに「日本は世界一優れた国だ」と言い募る人や、中国・韓国を罵倒する人も現れている。

現実をきちんと直視して、滅びに向かう「下り坂」を少しでも緩やかにするために何をすべきか。それを真剣に考えざるを得ないほど、日本は危機に陥っていると感じます。

内田 '11年の東日本大震災の直後には、私を含め多くの人が「もう今までのようなやり方は通用しない。これからは物質的な豊かさより、皆で助け合って穏やかに暮らそう」という方向にシフトすると思った。

でも、全然そうならなかった。むしろ、今となっては3・11も「なかったこと」にされているのではないか、と思うほどです。

この「3・11を忘れる」という流れの中で、日本人の思考停止が急激に進んだような気がします。不愉快なことは聞かない、見ない、考えない。でも、それでは、現実の困難さを分析し、対処することはできません。