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【風評被害から立ち直る】福島県いわき市「矢大臣うどん」の挑戦
なつかしさを感じさせるこの「矢大臣うどん」はいかにして生まれたのか

風評被害ですべてが吹き飛んだ

風評被害に苦しむ福島県で、ある農家が地元の商工会と協力して新たな取り組みを開始した。まったく新しい発想から生まれた「矢大臣うどん」は、いわき市のあらたな名物となるか。

太平洋に面した福島県南部のいわき市でも、宇佐見興産のある川前町は内陸部に位置する。どこか懐かしさを感じる、のどかな里山の風景が一面に広がる地域だ。

国道から外れ、山の一本道をひたすら登っていくと、畑と林の先に宇佐見建設の建物や建設用重機、資材置き場などが見えてくる。宇佐見興産はここの敷地内にある農業法人。宇佐見鐵雄(てつお)さんが建設と農業の両社の社長を兼ねている。

宇佐見さんは建設業の傍ら農業にもこだわりをもち、野菜づくりに力を注いできた。安全で高品質な野菜づくりのため、土づくりから取り組み、長年の研究によって開発したのが堆肥「活性UCM」(U=Usami宇佐見 C=Culture培養 M=Material資材)。土壌消毒をしなくても連作障害を起こさない良質の堆肥だ。

腐葉土にも似たこの堆肥「活性UCM」を使い、農薬などを極力控えて育てた大根、ニンジン、ゴボウ、ニンニク、ブロッコリーなどは、安全で高品質な野菜として、東京の大手有機・低農薬野菜販売会社を通じて販売されていた。安心・安全に関心の高い層の支持とおいしさが評判を呼んで販売は右肩上がり。

「よく売れました。野菜だけでも年間2000万から3000万円近くの売り上げだったこともあったほど」と宇佐見さんは当時を振り返る。建設業自体が10年ほど前から低迷したこともあり、野菜づくりへの期待と意気込みは高まっていった。

すべての歯車が狂ったのは5年前の3月11日。東日本大震災の発生だった。
川前町は内陸部のため津波の被害はなく、地震自体の被害も大したことはなかった。福島第一原子力発電所から32キロの場所ではあるが、風の流れから放射能の影響も免れた。事実、どの野菜を検査しても放射能は検出されず、安全性にはお墨付きが与えられていたのだ。

しかし、「福島の農産物は危ない」という風評被害は瞬く間に広がり、福島産であるというだけで、それまで大量の野菜を受け入れてきた東京の野菜販売会社は取引を断ってきた。その年は5トンの納入計画があったが、それも吹き飛んだ。

今年で震災から5年も経つが、残念ながらこの状況は今もほとんど変わっていない。