台湾
「日本の友人」が戻ってきた!台湾新総統が就任演説でみせた「親日回帰」の兆候
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見えてきた「輪郭」

5月20日午前に行われた蔡英文新総統の就任演説を、台湾のインターネットTVの生中継で見た。就任前よりも、かなり険しい顔つきを貫いていたのが印象的だった。

筆者は以前、李登輝元総統の自宅を訪れてインタビューした際、「中華民国総統」の椅子に座るとどのような気持ちがするものなのかと、尋ねてみたことがある。すると李元総統は、しばし沈思黙考した後、こう答えた。

「私は台湾の最終意思決定者だという気持ちが、常にあった。私の決定が誤れば、2000万以上の台湾国民が犠牲になる。隣には、民主国家の常識が通じない巨大な中国がいて、いつ何が起こるか知れない。そんなものすごい緊張感の中で、最後は自己の信仰心に基づいて決定していた。台湾の総統とは、それほど過酷な役職だった」

2016年の台湾も、問題山積の内政と、「麻煩」(面倒)なことこの上ない中国との外交戦は、李登輝総統の時代といささかも変わっていない。学者出身の蔡英文新総統にとって、これからの4年間は、政治理論を離れて、現実との「格闘」の日々となる。

では、蔡英文新総統は、どのような政権運営を目指すのか。以下、就任演説から見えてきた蔡英文政治の「輪郭」をお伝えしよう。

過去の2人と同じ轍は踏まない

蔡英文新総統は演説の冒頭で、「3回目の政権交代を実現し、4ヵ月の政権引き継ぎ期間を無事に終え、平和的に政権交代を終えたことに感謝する」と挨拶した。

「3回目」というのは、2000年の陳水扁民進党政権誕生、2008年の馬英九国民党政権誕生に次ぐ政権交代という意味だ。

私は蔡英文新総統とは面識がないが、過去に政権交代を成し遂げた陳水扁元総統と馬英九前総統には、それぞれインタビューしたことがある。

この先代と先々代の総統は、民進党と国民党で激しく対立していたが、実は共通点も多かった。ともに2期8年、総統を務め、最初は飛ぶ鳥を落とす人気だったが、最後は支持率低下が甚だしかった。そしてどちらも非常に聡明で、マジメな性格だが、政治手法は独断専行型で、周囲からは恐れられ、そのため党の内外に政敵が多かった。

陳水扁元総統は、2008年5月に退任したが、その半年後には総統府の機密費流用容疑で逮捕され、自殺未遂まで起こした。馬英九前総統だって、退任したからといって、この先何が待ち受けているか知れない。

今回、蔡英文新総統が「3回目の政権交代」と強調した背景には、「自分は過去2人の轍は踏まない」と宣言したかったようにも聞こえた。