「タブー」を犯した人間の心理を直木賞作家・東山彰良がえぐる! 衝撃の黙示録『罪の終わり』

週刊現代 プロフィール

 巡礼の旅は希望をもたらすのか

―ネイサンの取材によって、ナサニエルだけでなく周辺の人々の人生も浮かび上がってきます。とくに、ひとつの体に男女両方の人格を持つ食人鬼・レヴンワースは印象的でした。

東山彰良さん

怪物と恐れられた彼は、六・一六後にみんなが食人行為を始めた途端「もういいや」とやめてしまいます。それどころかナサニエルとともに人類を救済する立場にまわる。不思議なようですが、世界が変われば負わされる役目も立場も変わるわけで、どんなにおぞましい犯罪者も状況によっては英雄になることがあるんじゃないかと思います。

彼の話だけでなく、随所にちりばめた短いエピソードでも、抜き出せば一つの小説になるくらい密度を濃くしようと心がけました。僕のお気に入りは借金取りのモンド・ソーラ。登場してすぐに死んでしまう彼のようなキャラクターも「もっと読みたい」と思ってもらえたら嬉しいです。

―ナサニエルは自分がかつて犯した罪を贖いながら、六・一六後の世界を生き抜いてきました。旅をしながら彼が探し続けた「正しい場所」は、人々の求める救いを象徴していたのでしょうか。

何か耐えがたいことが起きたとき、その場所から離れることで癒やされていくことはあると思います。時の流れや、旅の途中で新しく出会うもの、やがて辿りついた場所が問題を解決に導いてくれる。そんな力が旅にはあると僕は信じています。

ナサニエルが辿りつく「正しい場所」は彼だけのものですが、同時に象徴的な普遍性もあるような気がします。

―悲劇の連続だった彼の人生にどこか希望を見いだせたのは、読みながら彼の旅に同伴していたからかもしれません。

たしかに明るい話ではなく、結末も悲劇的ですが、それによってナサニエルが罪から解放されたのであれば、そこには希望もあるはずです。どんなひどいことも永遠には続かない。本書で描かれた「食人の罪」もいつかは終わりを迎えます。やがて酒を飲んだり、歌を歌ったりという、人間として当たり前の営みも戻るでしょう。

僕が書きたかったのは人類が食い合う異常さではなく、どんなに厳しい状況でも生きていかなければならない人間たちの葛藤です。その中で自ら生み出した神話をよすがに、緩やかに復興していく人類の姿を描けたとしたら嬉しいです。

取材・文/立花もも

ひがしやま・あきら/'68年、台湾台北市生まれ。'03年『逃亡作法 TURD ON THE RUN』でデビュー。『路傍』で大藪春彦賞、『流』で直木賞を受賞する。『NARUTO』などマンガのノベライズや、翻訳も手掛ける

『週刊現代』2016年6月4日号より