徳之島移設案では沖縄と本土の亀裂はさらに深くなる
ヤマトがわかっていない歴史認識の違い

 4月25日に沖縄県で「米軍普天間飛行場の県外、国外への移設を求める県民大会」が行われる。この大会は超党派で行われ、民主党、社民党、沖縄社会大衆党の与党だけでなく、自民党、公明党も参加する。沖縄県の仲井真弘多知事がこの大会に参加するか否かに注目が集まっている。

<仲井真弘多知事は20日午前、那覇市の知事公舎で県政与党の自民党県連、公明党県本の幹部と面談し、4・25県民大会への出席について意見交換した。
  大会出席の判断を与党に伝える予定だったが、知事は「気持ちは与党と同じだが、もう少し考えたい」となお慎重姿勢を示し、その場での態度表明を保留した。与党側は知事の大会出席をあらためて要請した。
  知事は県民大会実行委員会に対し、20日までに結論を出す考えを示している。>
(4月20日琉球新報電子版)

 3月31日、沖縄を訪れた鈴木宗男衆議院外務委員長(新党大地代表)が仲井真知事と会談した。この会見について、鈴木委員長は筆者に、「仲井真知事は、『現在のような状態が続くと、沖縄と本土の間で、深刻な歴史認識を巡る問題が起こる』と懸念していた」と述べていた。

 仲井真知事は鈴木氏に重要なシグナルを出した。全国紙は普天間基地の移設問題を、情勢論としてとらえている。これに対して、沖縄はこの問題を存在論としてとらえている。この差異が、今後、日本の国家統合に深刻な影響を与えかねないことを仲井真知事は心配しているのだ。

 情勢論と存在論の違いについては、作家の高橋和巳(1931~71)の以下の考察が参考になる。

<理念は、すでになされたことの正当化としてあとからつけ加えられたものにすぎない。そこでは現に大きな力をもって存在するものは、その存在の善悪美醜にかかわらず承認される。
  いきおいすべての論議は力関係で処理され、現にあるものの見方の相違、立場の総意が問題になるけれども、本当にあるべきものなのか、なくてもよいものなのかという、道徳的な、あるいは存在論的な問いはどこからもでてこないのである。
  現在のあるような型での人間存在はなくていいといった感情や、総体として人類の文明史は間違っているのではないかといった絶望的疑惑は、情勢論的思弁とは遂に無縁なのである。>
(「孤立無援の思想」『高橋和巳作品集7』河出書房新社、1970年、30頁)

 全国紙は、抑止力理論を前提にして、中国、北朝鮮の日本に対する脅威に対応するためにはどこに米海兵隊を配置すればよいかという問題設定をしている。これは情勢論だ。これに対して沖縄のエリートと民衆は、沖縄と沖縄人が名誉と尊厳をもって生き残るためには、何が必要で、何が必要でないかという存在論から問題を設定している。

 米海兵隊の存在だけでなく、沖縄がヤマト(沖縄以外の日本)と提携していくことの是非にまで踏み込んで、沖縄の人々は問題を設定しているのだ。

 情勢論から見れば、徳之島への移設を沖縄は歓迎するように思える。しかし、存在論的にはそうならない。

「沖縄を捨て石にした大本営参謀の論理の反復だ」

 1609年に薩摩が琉球王国に「しんこう」する以前、徳之島を含む奄美群島は琉球王国の版図に属していた。沖縄本島北部と奄美大島、徳之島の言語は、近接している。奄美群島も1951年のサンフランシスコ平和条約で、沖縄とともに米国の施政権下に置かれた。現地では本土復帰運動が精力的に行われ、1953年12月25日に奄美群島の本土復帰(施政権返還)が実現した。

 沖縄の政治エリート、文化エリートから、「徳之島のような旧琉球王国の版図、すなわち広義の沖縄に普天間飛行場を移設することでは、問題の本質的解決にはならない」という見解も近く出てくることと思う。

 ちなみに1609年の「しんこう」を筆者が平仮名で書いたのには理由がある。沖縄学の父である伊波普猷が「侵攻」と表記したのに対し、次世代の沖縄学者である仲原善忠は「進攻」という漢字をあてた、伊波と仲原の歴史認識が異なるからだ。過去の歴史は、現在の状況から再解釈される。沖縄の人々の自己意識において、「進攻」から「侵攻」への変化が生じている。

 4月25日の県民大会後、沖縄と本土の亀裂は一層深くなる。抑止力理論に基づいて、中国の潜在的脅威に対し、地政学的に沖縄県内に普天間飛行場を移設する以外のシナリオはないということを東京の専門家がいくら説明しても、「それは本土防衛のため、沖縄は捨て石になれと言った大本営参謀の論理の反復だ」と言って、沖縄の人々は受け付けない。本土と歴史認識が異なるからこういう受けとめになるのだ。

 普天間問題を抑止力からだけでなく、日本の国家統合を維持し、沖縄の離脱を防がなくてはならないという観点から考察しなくてはいけない状況に至っている。

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