格差・貧困 社会保障・雇用・労働
先進国で最悪水準「子どもの貧困」~ひとりの男の子と統計データが示す厳しい現実
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文/森山誉恵(NPO法人3keys代表理事)

近年、奨学金の充実化やひとり親家庭への児童扶養手当の充実化をはじめ、家庭の状況によらず子どもたちの権利を社会で保障する動きが少しずつ増えてきています。そんな中でも、「今までやってこなかった本人の責任」という言葉や、「どうせ支援したって無駄なことにお金使われる」という声をいまだに聞くことがあります。

私はこれまで300人近くの、虐待や貧困などで頼れる親や大人が少ない子どもたちを支援してきましたが、その中で意図して悪い方向に行く人は見たことがありません。自分の生い立ち以上に、必死に生きている子どもたちばかりで、いつも自分がいかにのんきに生きてきたか、恥ずかしくなるほどです。

私がいまの活動をはじめるきっかけにもなったひとりの男の子がいます。これは、NPO法人3keysを立ち上げる前、虐待や育児放棄などで親と暮らせない子どもたちがいるクラス児童養護施設(以下、施設)に、個人でボランティアをしていたころの話です――。

学校嫌いは、ただ単に悲観的だからではなかった

私がはじめて彼に会ったとき、彼はすでに学校や勉強への意欲はほとんど残っていない状況でした。その学力は小学校1~2年生レベルですら抜け漏れが多い状況でした。中学校の数学をやろうにも、教科書で公式を見ても小学生のころの四則演算がうまく解けないので人の何倍もかかってしまう……。

そもそも勉強の習慣がないため、長時間、机に座っていることに慣れていない。誰かに勉強を教わったこともほとんどないので、勉強を教えてもらうこと自体がなんだか気持ち悪い。そんな状況でした。5分ほどしたら、顔を伏せて寝てしまいました。おそらく学校でも同じような感じだったのかもしれません。

中学生のときに育児放棄で保護され、施設に入所した彼はひとり親家庭で育ちました。母親は彼を含めた2人の子どもを育てるために朝から晩まで働いていました。

父親のことはよくわからず、まだ家庭にいたときも連絡すら取れない様子だったのでおそらく養育費をもらえなかったのだと思います。子育てと長時間労働を両立させるのは困難なため、母親はパートや夜の仕事をかけもちしながらなんとか生活している状況だったそうです。

幼いころから保育園や小学校にかけて、集団の中の一人として育ち、彼のちいさな成長や、ちいさなつまずきに気づいてくれたり、常に気にかけてくれたりする人はいませんでした。

絵本を読んでもらったり、スーパーに買い物に行って野菜や果物や食べ物のルーツについて親から教えてもらったり、小さな成長をほめてもらったり、学校での悩みに寄り添ってもらったり――彼にそんな経験はなく、自分の未熟な力で見えない壁を乗り越えていくほかありませんでした。

私が会ったとき、彼は中学生で思春期ということもありましたが、子どもらしく大人に甘えたり、頼ったりする姿勢は同世代の子どもたちに比べても全くなく、とても達観していて、小さな大人のようにも見えました。

それでも、まわりの友達と同じ授業を受けているのに「何で自分は解けないんだろう」という疑問が常にあったようです。小学生のころから、自分はまわりよりも長い文章が読めず、ひらがなやカタカナを覚えるのが遅いのを感じていました。

長文に出てくるいろんなシチュエーションがすぐに理解できないこともたびたび。「自分は頭が悪い。勉強に向いてない」――そう思うまでに時間は長くかからず、小学校3年生のとき、学校にいるのが苦痛で仕方なくなりました。

そんな状況が3年間も続けば、不思議ではありません。すでに小学校低学年のときには、家で本を読んでもらったり、習い事をしたり、わからないことを家や塾で教えてもらったりしている友達との大きな差を実感したのでした。

私に向かって彼はいつも「どうせ俺は勉強ができないから教えても無駄だよ」「俺はサッカーをして食っていくんだ」と言っていました。小さいころから親が出かけるときは父が好きだったというサッカー番組を録画したビデオを母親が見せてくれていたこともあり、サッカーが好きだったようです。ひとりでよくサッカーボールで遊んでいたし、クラスでも得意な方でした。

しかし、そんなサッカーでも、放課後にサッカー教室に通っている部活の友達と少しずつ差が開いてきている状況も感じていました。交通費がなくて練習試合等にいけないことも続き、部活でも孤立しつつありました。

口ではサッカーで食っていくと言っていた一方で、その表情からはすでに厳しい現実を悟っていることが伝わってきました――。

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