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鈴木敏文という天才——セブンイレブンのすべてをつくり、追われた男
その「才能」と「限界」を語り尽くす特別座談会
〔PHOTO〕gettyimages

愚直なまでに率直な物言い、顧客視線を貫いた商品へのこだわり、ときに強引にも見えた経営手法—カリスマともワンマンとも評されたが、これほど凄い経営者はもう二度と現れないかもしれない。

勝見明 ジャーナリスト。構成書に『働く力を君に』(鈴木敏文著/講談社刊)。鈴木氏に「私以上に私を知っている男」と評される
信田洋二 小売り・物流コンサルタント。「Believe Up」代表。セブンイレブン在籍時は120店舗以上の経営指導にあたる
磯山友幸 ジャーナリスト。元日経新聞記者(証券部)、チューリヒ支局長、日経ビジネス編集委員。企業のガバナンス問題に詳しい

浅漬けひとつでクビが飛ぶ

信田: 私は'95年から'09年まで、セブンイレブンに勤めましたが、鈴木敏文会長(83歳)の経営スタイルには、驚かされることばかりでした。正直ついていけないな、と思うことも日常茶飯事……。とにかく次に何を言い出すかわからない経営者なのです。

勝見: 凡人とは全く違う発想法の人でしたからね。

信田: 例えば、こんな話があります。セブンイレブンでは毎日のように鈴木会長をはじめとした経営陣たちがそろって商品を試食し、品評するのですが、ある日、鈴木会長が「これはうまい」といたく気に入ったキャベツの浅漬けがあった。

ところが、全国の店ではこの浅漬けがあまり発注されておらず、売り上げも少なかった。その現状に納得がいかなかった鈴木会長は「こんなに美味しい浅漬けをちゃんと売れないなんてどういうことだ!」と激怒し、何人かの責任者が飛ばされたのです。

カリカリの梅干しが入ったご飯も大変気に入って、同じようなことがありました。たった一つの商品でも、カミナリが落ちるので、周りはついていくのが大変です。一事が万事この調子でしたから、社員の離職率も高かったですよ。

勝見: 鈴木氏の発想に普通の人々がついていけないのは、彼の考え方のユニークさ故でしょう。

普通の人々は、去年の同時期の売り上げはこれくらいだったから、今年はこれくらいになるだろうというように、過去や現在の状況を分析して、ものごとを判断します。ところが、鈴木氏の発想の起点はいつも「未来」にあるんです。「現状がこうだから、未来はこうなる」ではなく、「未来がこうなっているだろうから、現状をこう変える」という発想法。

これは、何気ないことのようで、なかなかできない考え方で、事実、鈴木氏が見ている未来のビジョンを周りの人間が共有できなくて軋轢が生まれたこともありました。