『世界一受けたい授業』でおなじみ河合敦さんが選ぶ「人生最高の10冊」

歴史家の河井敦さん

司馬遼太郎の筆に惹かれて

教師を目指そうと考えたのは中学生の時に見たドラマ『3年B組金八先生』がきっかけです。初めは教科についてこだわりはなかったのですが、金八先生が坂本龍馬を敬愛している設定だったので、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読み、「これは歴史の先生しかない」と心に決めました。

それまで歴史小説など読んだことのなかった中学生にとって、全8巻の大作はハードルが高かったのですが、すぐに夢中になり、一気に読めました。司馬さんの描く龍馬像があまりに魅力的だったからでしょう。

元々はいじめられっ子だった龍馬が、剣術に熱中するうち自信を持ち、江戸に出て多くの人に出会う。他の志士たちが外国人を追い払えと叫ぶのに対し、龍馬は外国と対等に闘うには強い海軍が必要と考え、幕府で海軍のトップを務める勝海舟に弟子入りする。現実的で俯瞰的な視点を持っている点が魅力的です。

さらには、薩摩と長州を結びつけて、幕府も含めた天皇中心の近代国家を作ろうという平和革命を目指したことに感激。教師になるなら、ぜひ歴史を教えたいと思いました。

ただ、その後、歴史を学ぶ中で、司馬さんが描いた龍馬が、実は真実とはかなり異なることを知りました。そのきっかけが、『龍馬の手紙』です。

文字通り龍馬が残した手紙類を集めた本ですが、そこから浮かび上がったのは、策略的で、腹黒さも持ちあわせている龍馬の素顔でした。

なにより、本当は無血革命などまったく考えていなかったことを知った時は衝撃的でした。ただ失望よりも、司馬遼太郎という作家の筆の巧みさを感じました。

また、多くの人が抱いている歴史のイメージと真実の違いを知る面白さを伝えたいとも思いました。そういう点で、『龍馬の手紙』も忘れられない一冊と言えるでしょう。