「暗殺教室」はなぜ最高の学び場となるのか? 完全管理社会をタフに生き抜くために

武術と教育の接点を徹底討論
内田樹, 光岡英稔, 甲野善紀

毎日100人自殺する国で

内田 『暗殺教室』を読んでいない人は、ここまでの話を聞いて、「超生物が暗殺技術を教えて、子供たちが個性を開花させていく」という、なんだか変な話というふうに思っているかもしれません。でも、これ学園ドラマなんですよね。

内田樹(うちだ・たつる)1950年生まれ。神戸女学院大学名誉教授。思想家・武道家。

暗殺を教えられているE組は落ちこぼれで、学校全体としては過激な進学校です。E組では、人殺しの技術を懸命に学んでいて、それ以外はひたすら受験勉強をしています。

受験勉強に必死に取り組んでいる生徒たちは相手を陥れようとしたり、明らかにお互いを殺し合っています。比べて暗殺を学ぶE組の子らはお互いを高め合っています。

パリでのテロの際、130人ぐらい亡くなり、大騒動になりました。それについてイスラム法学者の中田考先生が「何でそんなに大騒ぎするの? 日本では年間3万人、1日あたり100人が自殺しているのに」とおっしゃった。

確かに飢饉も内戦もテロもないところで、毎日100人ずつ死んでいる。それがどういう日常生活で起きているかというと、例えば上司がどなったり、同級生がいじめたり。そういうことの中で毎日100人が死んでいる。誰かが100人を毎日殺しているわけです。殺している本人は業務上の当然の要求をしただけだと思っているでしょう。

私たちの日常生活は、それと気がつかないで人殺しをしています。逆に「どうやったら人を殺せるか」という技術の鍛錬は殺人を主題化している限り、無意識に人を呪い殺したり、追い詰めたりはしない。

だから「暗殺教室」というのは、E組の子たちのことではなく、E組以外が全部「暗殺教室」です。むしろE組だけが「生存教室」で、あとはそれと知らずに、周りの人間の生きる力を損なっているわけです。それが社会における競争の姿であり、したがって「私たちはフェアに育っている」と思い込んでいる。

光岡 一人一人の個性を生かす。それについて私の場合、武術を通じて何ができるかなと考えています。武術をやりたい人は、どこかでメインストリームから外れたがっている人が多いので、E組的なのかもしれません。そういう意味では一般的に変と言われかねないでしょう。

甲野 まあ、変な人は問題も起こすでしょうが、だからといって、政府が育てたいような「良い人材」をたくさん育てたところで、この先うまくいくとは到底思えません。

「良い」とされていることを積み重ねれば本当に良くなるかというと、いろんな矛盾が増えて行くだけではないでしょうか。「このままではまずい」といえず、体制に対して「はい」というだけのことになってしまいかねませんからね。

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