「暗殺教室」はなぜ最高の学び場となるのか? 完全管理社会をタフに生き抜くために
武術と教育の接点を徹底討論
左から光岡英稔氏、内田樹氏、甲野善紀氏

担任教師を生徒たちが暗殺しようとする……そんな一見、荒唐無稽な設定の漫画『暗殺教室』が大人気だ。この作品に注目した三人の武の達人、内田樹氏・光岡英稔氏・甲野善紀氏に、「教育」と「殺傷技術を学ぶこと」の接点を縦横に語ってもらった。

 殺傷技術を学ぶことが、才能を最大化する!?

甲野 内田先生と光岡師範の新著『生存教室』(集英社新書)は漫画の『暗殺教室』を下敷きにしています。光岡師範がこの漫画に興味をもたれたのはなぜですか?

光岡 漫画をお読みでない方もいるとおもうので、少しだけ『暗殺教室』のストーリーを説明します。

『暗殺教室』に登場するタコのような外見をもつ「殺せんせー」は、マッハ20で飛ぶなどの能力を用いてあらゆる軍事攻撃を跳ね返すなど、いつでも人類を滅亡の淵に追いやれるだけの実力を備えています。なぜか生徒が卒業を迎える来年3月に地球を破壊すると宣言しています。生徒たちは1年間のうちに「殺せんせー」を暗殺しなくてはなりません。

実は「殺せんせー」は、かつて死神と呼ばれていた世界一の殺し屋でした。捕まえられて、さまざまな実験を行われ、いまのような姿形になったわけです。拷問に等しい実験の過程で出会った監視役みたいな人と仲良くなっていくのですけれど、これが初めて人として扱われた体験でした。

かつて彼は「いかに生徒たちに暗殺の技術を教えるか?」について考えていました。そのことと初めて人として接された時間を経て、「殺せんせー」となったかつての死神は、これまで取り組んでいた考えを教育という現場に持ち込んだ。

つまり生徒たちをよき暗殺者にすると同時に、自分の個性を発見できるような学び方を教え始めます。私が『暗殺教室』に興味を持ったのは、これが自分のテーマでもあったからです。

内田 武術とは煎じ詰めていうと殺傷技術ですよね。そうではあるのですが、実際に私も道場で合気道を教えていてわかるのは、教育と非常になじみがいいということです。人をどうやって効果的に殺したり傷つけたりするかという技術を教えるということが、教育の方法として有効なんです。

どうしてかというと、一人一人が持っている潜在的な可能性や資源をとにかく最大化していくからです。可能性も資源も本人が自分の欠点だと思っているところと裏表になっています。いわば殺す力を磨くことが生きる力を高めている。

大学で教えていた頃は、「生きる力を高める」ことについてうまく伝え切れませんでした。私が関与した結果、才能が豊かに発動した学生というのは、おそらく全体の5%くらいです。かなり歩どまりは低い。

けれども合気道を教えていると、潜在可能性に気がついて伸びていく子たちは20~30%はいます。学問は「これを覚えておくと役に立つ」だとか就活にプラスとか有用性を目指すわけです。比べて合気道は腕を折ったり投げたりする技を学びます。しかも「実際に使うような場面になってはいけない」と教えるわけですから、まるで有用性はありません。

身につければつけるほど有用性のないものを学ぶほうが、なぜか個性や才能を伸長させていく。

今回、光岡先生から『暗殺教室』を題材に取り上げたいと言われて、改めて気づきました。殺す技術を教えることが、一人一人の持っている才能を最大化する上で極めて有効である。このことをここまではっきりと言い切った作品はかつてなかったのではないでしょうか。