シリーズ累計550万部の大人気ミステリー!
作者・島田荘司がその「魅力」を語る

映画『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』のwebサイトより

謎深い事件のはじまり

―累計550万部に達する名探偵・御手洗潔シリーズの最新書き下ろし長編です。舞台は関東の工業地帯にあるT見市。物語は、高度成長期の栄華から取り残されたような、うらぶれた大看板の光景から始まります。

プルコという製菓会社が、「ひと粒400メートル」がうたい文句のキャラメルを宣伝するために看板を出しています。その看板は中距離走者の表情が電動で変化する仕掛けで、地元のシンボルになっていたという設定です。

プルコはやがて凋落、大看板は苦悶の表情のままで故障、この作品の舞台となる、バブル経済ピークの'90年になっても打ち捨てられたように地元デパートビルに掲げられたままになっている。

強く意識したわけではないのですけれど、私はあの看板の中距離走者の姿を、高度成長期の日本国民一般のがんばりの象徴のように捉えていたのかもしれませんね。上梓した今、そんな感じを持っています。

―大看板のあるビルの隣にはU銀行のビルがあり、屋上に上がる行員は次々と転落死してしまいます。謎深い事件の始まりです。

彼らは屋上に上がる時、「絶対に自殺したりはしません」と明言しながら、2~3分後に飛びおりてしまうんですね。それが4人も続く。一般的なミステリーなら、この事件に起因がないことをもう少しぼかすかな(笑)。

しかし私は、はっきりと書くことで物語の構造を提示、謎の強烈さを強調しています。このトリックの真相は読んでのお楽しみですが、それはもちろん、ヒモやロープを使う、棒でかき落とすといった単純な方法ではありません。

―最初に犠牲になるのは、女子行員の岩木俊子。彼女は、結婚間近で幸せの絶頂でした。関西弁ではきはき話す彼女はチャーミングで、作者としても好きな登場人物です。いい子なのに30歳を過ぎても独身でね。

結婚に関して、女性はかなり厳しいですよね。適齢期というのがあって、そこまでに恋愛対象がうまく出現しなかったら、誰かマシな人を探して手を打とうとする。それこそマンション探しみたいなことになっています。

31歳の岩木さんは、5歳年下のトム・クルーズ似の男と出会い、容姿がよいなら中味はどうでも「女たちが嫉妬してくれる」と舞い上がっていたところでした。