「絆す」の読み方、わかりますか? 2人の伝説的編集者が明かす人間関係の奥義

第13回ゲスト:松岡正剛さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

季節外れの雪を降らせた「テネシーの奇跡」

島地 「月刊プレイボーイ」にいたころ、タイアップの取材で、テネシー州のジャック・ダニエル本社に行ったことがあります。その頃、わたしは毎晩のようにジャック・ダニエルを飲んでいましたが、本社の社長は「日本人が?」という目で見る。そこで「飲んでるなんてもんじゃない。毎朝、ヒゲを剃った後で顔に塗ってるんだ」といったら、すっかり気に入られて。

日野 よく咄嗟にそんなホラが吹けますよね。そういうところは素直に尊敬します。

島地 ジャック・ダニエル本人はずっと独身だったんですが、何となく「墓がおもしろいに違いない」と思って、社長にお願いして案内してもらったんですね。そうしたら、不思議なことに、立派な墓石の前に白い椅子が2つ置いてある。

これはどういうことだ?と聞くと、「おれには女がたくさんいる。死んだら悲しんで墓参りにやってくるだろうから、椅子を2つ用意して順番を待ってもらえ」という遺言があり、それを忠実に守っているんだそうです。

松岡 なかなかの人物ですね、ジャック・ダニエル。ユーモアのセンスもある。

島地 ところが、それを見た操上さんが「雪が少し積もったら完璧なんだけどな」という。でも社長曰く「この10年、雪なんて見たことない」。さすがに無理でしょう、これは。ところが操上さんは「大丈夫、島地さんが祈ってくれれば」と。どんな無茶ぶりかと思いましたが、その夜はもう、生まれて初めてというくらい、空に向かって「雪を降らせてくれ」と祈りましたよ。

日野 そして、まさか?

島地 そのまさかで、朝、目が覚めてカーテンを開けると雪が降っていたんです!

松岡 それはすごい。天さえも動かしたわけですか。

島地 うっすら積もる程度だったんで、融けないうちに急いで墓まで行って写真を撮って、わたしが書いた原稿と合わせて代理店とクライアント見せたら、みんなもう、びっくり仰天ですよ。

松岡 雪もすごいけど、人に目をつけるところがさすがですね。普通、タイアップやコマーシャルの撮影だと製造現場に行きますよ。原料は何で、創業時からのものづくりにこだわって云々という話になるのが定番です。

ところが、島地さんの場合、そんなことよりもまず人。その着眼点があるから、白い椅子のエピソードに出会えたし、季節外れの雪という奇跡も起きたわけです。今の雑誌の世界にそんな仕事ができる人はいませんね。

島地 わたしの頃とは時代が違いますが、雑誌のパワーが落ちているのは間違いないと思います。

松岡 編集者の雑誌に対する熱も冷めていますよね。島地さんがシバレンさん、今東光さん、開高健さんなどに飛び込んでいって自分を磨いたように、編集者として成長しよう、新しいものをつくろうという意欲が感じられない。

島地 どんなにデジタル化されても、やっぱり人なんですよ。