「絆す」の読み方、わかりますか? 2人の伝説的編集者が明かす人間関係の奥義

第13回ゲスト:松岡正剛さん(後編)
島地 勝彦 プロフィール

ローマ教会で間近に見た、画家の天才と狂気

島地 松岡さんの大著『千夜千冊』の装丁をされたのも福原さんですよね。

松岡 ある日、突然やってきて、「松岡さん、あの本の装丁をさせてください」というわけです。そのときはもうイメージが出来上がっていたんでしょう。

以前、丸善丸の内店で「松丸本舗」という本屋をプロデュースしたとき、書を飾りたいと思ったんですね。それで福原さんに墨で書いていただいたんですが、そこには「私の人生は本に編集されている」と。こういうことをすらっと書ける人こそ本物の読書人だと思います。ずっと飾っておきました。

話は変わりますが、福原さんはカラバッジョの絵が好きで、マルタ島まで見に行ったそうです。たしか島地さんもカラバッジョがお好きでしたよね。

島地 わたしもマルタ島へ行って衝撃を受けました。福原さんとはいろんな話題で意気投合しますが、カラバッジョだけで何時間語りあったことか。

松岡 ああ、そうだったんですか。島地さんもマルタへ行っていたんですね。

島地 カラバッジョのためだけにマルタ島へ行って、3日間ずっと見てまわりました。

松岡 それはすごい。そこまでする日本人はなかなかいませんよ。カラバッジョの魅力、島地さんはどこに感じるんでしょうか。

島地 端的にいうと「残酷」と「美」でしょうね。残酷な主題でも、そこに美があり、美しい場面でも、必ず残酷さがある。

松岡 以前、横尾忠則がグラフィックデザイナーとして活躍していたとき、「松岡さん、ぼくはデザイナーをやめるよ」と聞かされて、驚いたことがあります。理由をたずねると「カラバッジョだ」と。

斬首された首に、自分の自画像を描き込んだ「ダビデとゴリアテ」を見て、打ちのめされたそうなんです。これこそが本物の芸術であって、デザインなんてちゃっちい。おれは本物の芸術をつくりたいと、止むにやまれぬ衝動に駆られて絵画に転向したんです。

島地 横尾さんがそういい出したときは驚きましたが、でも、よくわかります。人生を変えるくらいの力がカラバッジョの絵にはありますからね。わたしはずっと前から好きだったんですが、決定的な転機は、塩野七生さんとローマの教会をまわったことですね。

松岡 そうか、塩野さんはずっとローマ在住でしたね。