【ルポ】中国に喰われた日本人~大陸へ渡ると、そこは日本以上の格差社会でした
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上海を夢見た日本人

2012年の反日デモとその後の円安傾向、中国経済の失速などの要因が重なり、近年は中国に長期滞在する日本人が減少傾向にある。だが、上海は従来、10万人近くもの日本人が暮らす、アジア最大の“日本人都市”であり続けてきた。

市内には日本語の看板が溢れ「中国語がまったく話せなくても、東京と同じ暮らしができる」(現地日系企業駐在員)と言われたほどだ。中国の都市とはいえ、反日感情も比較的薄く、日本人が最も暮らしやすい海外の街のひとつだった。

そんな上海に、一発逆転のサクセスストーリーを夢見て海を渡る若者も少なくかった。もっとも、「日本以上の格差社会」と言われる上海の日本人社会。現地に流れてきた人のなかには、日本社会ではなかなか見られないようなとんでもない人間も数多く混じっていた。

2012年12月、私は『和僑~農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本』という中国で暮らす日本人のルポルタージュを書いた。幸いにもこの4月23日に文庫版が発売されることになった。本稿では、同書の取材前後に私の耳に入ってきた、上海在住日本人たちの知られざる仰天エピソードをお蔵出ししていこう。 

違法薬物の取引に手を染めた男

「この前、現地の出稼ぎ労働者に混じって、井上君がスラムの路上で串揚げ屋台を出しているのを見たよ」

上海市内で旅行会社を経営する杉原さん(34)が、かつての友人の噂を耳にしたのは2012年秋のことだ。同世代の「井上君」は、中国に来たばかりの頃に、日本人が集まる異業種交流会で知り合った人物である。

井上君はユニークで人懐っこい性格だった。日本では様々な仕事を経験してきたらしく、周囲に対して常に熱く夢を語る。だが一方、「俺はかつて年収◯千万円だった」「芸能人の●●とコネがある」といった話を繰り返す、ビッグマウスの傾向もあった。現地で水商売の女性とのデート中に、友人を呼び出して飲食費をせびるなど、お金にルーズな面もあった。

2010年ごろ、杉原さんはそんな井上君から「ラーメン屋を開く」と出資を求められた。当初は迷ったが、彼は調理師の経験があって料理の腕は確かだし、中国に来て最初にできた友人でもあったので、思い切って20万円ほど出してあげることにした。「中国全土に日本のラーメンを広めてやる!」と息巻く彼を応援してあげたい気持ちもあったという。

「でも、全然ダメでしたね。しばらくすると、なぜか『お金が足りない。従業員の給料を代わりに払ってくれない?』と言い始めたんです。起業資金は十分に集まったと話していたのに、首をかしげたんですよね。もちろん、追加の出資は断りました」

井上君の店舗は駅から離れた路地裏にあり、素人目に見ても立地は最悪。加えて従業員のトレーニングも不足気味で、しばしば注文を間違えていた。そもそも、上海は日本で修行したラーメン職人たちが多数進出する激戦地帯だ。クオリティの低い店が生き残れるはずもなく、店は数ヶ月もせず潰れてしまう。

「その後、井上君が店の開業資金を私的に使い込み、資金がショートしていたことが判明。他にも悪い噂を多く耳にしたので、出したお金は手切れ金と考えるようにして、一切の連絡を絶ったんです。他の現地の友人たちも愛想を尽かして縁切りしたようでした。そうしたらある日、とんでもない話を聞いて……」