鴻海を敵視するのは大きな間違い!~台湾歴30年の国際ビジネスコンサルタントが買収の効果を分析
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「親中派」の意味をご存じか

台湾歴30年(台湾大学卒業)、日系企業の台湾代表や台湾企業の顧問を務める藤重太氏。このたびの鴻海によるシャープ買収について、台湾側の視点から、鴻海の狙いとシャープの今後を読み解く。

3月30日、日本経済史上初めて、大手家電メーカーが外資の傘下に入ることが決まった。創業104年を誇るシャープが、創業42年の台湾の鴻海グループに買収されたのだ。鴻海は、もともと日本企業の下請けから成り上がってきた企業。下克上と言っても良いかもしれない。

テリー・ゴウこと郭台銘が1974年に起業した鴻海は、部品の下請け工場から、一代で世界のパソコンの委託生産(EMS)企業として頭角を現す。郭台銘は「一日16時間働く男」、「覇気の郭董(社長)」と言われ、台湾では経営のカリスマ的存在だ。今では、アップルのiPhoneやiPadなどの外注をほぼ手中に収めている。2014年の売上は4.2兆台湾ドル。日本円に換算すると約15兆2000億円前後になり、シャープの8280億円の5倍の大きさだ。

今回のシャープ買収劇では、いろいろなハプニングが印象的だった。特に郭台銘の交渉術に翻弄されるシャープの慌て振りに、多くの日本人は同情すら覚えたかもしれない。2月25日に総額4888億円で合意するかに見えた交渉が、偶発債務の発覚で、一変してシャープが厳しい再交渉を強いられる事になる。最終的には1000億円の減額、3888億円で合意し、先日の4月2日にようやく調印した。

日本側はこの結末に「してやられた」と感じたことだろう。もともと「日本産業革新機構案」を支持していた人たちは、「やはり詐欺だった」と揶揄した。日本での報道も「郭台銘シャープを翻弄」「シャープと鴻海双方にとって不幸な決着」と批判的に報道するところも少なくなかった。

「郭台銘は外省人で根っからの親中派」とバッサリ言い切る解説者もいた。「台湾人も結局は中国人。最初から騙すつもりだったんだ。中国人はみんな同じ手口ですよ」と断じる人もいた。私は残念に思いながら、これらの報道に接していた。

台湾の人に「台湾人は中国人だ」と言うことが、どれだけ彼らを侮辱することになるか、わかっているのだろうか。しかも近年は台湾人自身が「我々は中国人とは違う。我々は台湾人だ」というアイデンティティを強く持つようになっている。そんな中でこのような表現は軽率すぎる。

また、日本のメディアが郭台銘氏を紹介する際に、その多くが「外省人で親中派」と説明するのも気になる。たしかに、台湾人に「郭台銘は親中派か」と聞けば、ほぼ全員が「彼は親中派だ」と答えるだろう。しかし、台湾では「親中派」とは「中国で成功した人への嫉妬と褒め言葉」というぐらいのもので、「危険分子」という意味合いではない。