この国に静かに忍び寄る「団塊世代の貧困」という大問題

まず現実を直視したい
藤田孝典

「しつこい」と言われるまで

藤田 ただ、そこにもうひとつの悩みがあります。つまり、ある層の貧困を取りあげて支援を呼びかけると、「彼らはまだマシだ。私に比べれば贅沢をしている」「私たちのほうが大変なんだから、こちらを支援してほしい」という反発の声が必ず上がることです。

たとえば、貧困に苦しむある若者は、カップラーメンを食べることにさえ罪悪感を覚えると打ち明けました。より苦労をしているという人から、「カップラーメンなんて贅沢だ。5食入りの袋麺のほうが安いのだから、そちらを食べるべきだ」という批判を耳にしたためです。

同様に、高齢者の貧困を取り上げれば、「それよりも子どもの貧困のほうが問題。こちらの対策に予算を掛けるべき」との声が上がる。つまり、貧困問題は分断されやすいのです。セグメント化するほど、それは進行してしまうかもしれません。

これは非常に難解な問題で、私の中でも、まだこの難問に対する有効な答えは見いだせていません。

鎌田 私も時々無力感に苛まれることがあります。ただ、貧困に関する問題を報じると、必ず「自分にできることはないだろうか」と立ち上がってくれる方がいます。子どもの貧困にしても、高齢者の貧困にしても、です。番組を放送しなければ、彼ら彼女らは現れなかったかもしれない…。そういう方々の存在が、希望になっています。

藤田 目指すべき方向はわかっているんです。私たちが貧困問題を叫び続けることで、それを自覚する人が現れ、自らSOSの声をあげる。別の類の貧困に苦しんでいる方は、それを見て非難するのではなく、「私たちも大変だから、一緒に解決の手段を探しましょう」「みんな困っているんだから、みんなで困っていることを伝えていきましょう」と手をつなぐ。

そして、行政の支援はもちろんですが、余力のある人たちが、彼らに救いの手を差し伸べる――。

これが理想形なんです。無力だとは感じながらも、まずはその起点となる「貧困の可視化」に取り組まなければと思っています。もちろん、彼らへの直接的な支援を続けながら。

鎌田 私たちも、この問題への取り組みを、「しつこい」と言われるぐらい続ける覚悟です。

●『老後親子破産』NHKスペシャル取材班・著 1300円(税別)
●『貧困世代』藤田孝典・著 760円(税別)

鎌田靖 1957年生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHK入局。検察取材などを担当、司法キャップなどを歴任。05年、解説委員となる一方、『週刊こどもニュース』のお父さんを4年間担当。NHKスペシャルの『老人漂流社会』シリーズでは、キャスターを務めている。
藤田孝典 1982年生まれ。埼玉県在住の社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。NPO法人ほっとプラス代表理 事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論、相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障 審議会特別部会委員(2013年度)。著書に、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)などがある。