佐藤優直伝!「バカ扱い」されない教養力
〜ビジネスマンこそ「日本史」を学べ

外交官時代、肌身離さず持ち歩いた1冊

私は高校時代、日本史の参考書としては主に『チャート式日本史』(数研出版)を使っていたが、大学入試では日本史を選択しなかったので、大学入学時点で高校時代の教科書、参考書、ノートのほとんどを廃棄してしまっていた(いまになって振り返ると、じつにもったいないことをした。当時の教科書、参考書、ノートに書き込んだ着想メモには作家になってから役に立つものがあったはずだ)。

「日本史の本を持って行きなさい」という先輩外交官の話が腹に落ちたので、中公文庫版『日本の歴史』(全26巻)と安藤達朗『大学への日本史』(研文書院)を購入した。『日本の歴史』全巻をカバンに入れて携行することはできないので、1巻本である受験参考書も購入したのだ。

『大学への日本史』を選んだのは、大学入試で用いた大熊慶四郎『大学への世界史要点』(研文書院)がとても良い本だったので、その姉妹編である日本史の本も役立つだろうと思ったからである。

実際、この本はイギリスで研修したときも、ロシア(ソ連時代を含む)で仕事をしたときも、とても役に立った。常日頃からカバンに入れて持ち歩き、日本史にまつわる疑問が生じるたびに、本書を紐解いた。リトアニア、ラトビア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンなどに出張するときも、私はこの本をスーツケースに入れていた。

私の日本史の知識の基盤は、本書によって形作られたといっても過言ではない。日本史を学び直したいビジネスパーソンも、安易に作られた新書100冊を読むよりも、この1冊を熟読したほうが、はるかに基礎知識が身につくはずだ。近現代の知識はビジネスに直結する。ぜひ本書をビジネスパーソンや社交に必須の実用書として活用してほしい。

「世界史の文脈」を意識した日本史の記述

外交官になって本書を読みながら、気がついたことがある。それは、著者の安藤達朗氏が世界史の文脈を意識しながら日本史に関する記述をしていることだ。たとえば明治維新についても、ヨーロッパでの国民国家(ネーション・ステイト)形成との文脈で論じている。

<維新の背景

(前略)日本が明治維新によって統一国家をつくりあげたころ、ヨーロッパにおいても、ドイツとイタリアがいずれも1871(明治4)年に統一を完成した。いわば、この時期は民族統一を実現するために残されていた唯一の時期だったといえる。

幕末の対日政策を主導したイギリスは、世界の工場としての地位を確立して、むしろ貿易の自由を強く求めていた。インドのセポイの反乱(1857)や中国の太平天国の乱(1851~64)のような植民地支配に反抗する手ごわい民族運動に直面して、柔軟な対日政策をとり、貿易の自由が保証される限り、日本の国内紛争には中立の立場をとって介入を避けた。

また、アロー号事件をとらえて第2次アヘン戦争(1856~60)を引き起こしたように、その主力を中国に向けていた。

【解説】

極東でイギリスともっとも対立していたロシアは、1861(文久1) 年に対馬を占領したが、イギリスが軍艦を派遣して退去させた。英・仏とのクリミア戦争 (1854~56)の敗北で、ロシアは進出の気勢をそがれ、国内問題に忙殺されていた。幕府と結んで多くの権益を獲得していたフランスは、ルイ=ナポレオンの対外政策がことごとく失敗し、とくに普仏戦争(1870~71)で敗北して、日本から後退した。日本を開国させたアメリカは、南北戦争(1861~65)によって国内問題に忙殺され、対日関係を消極化していった。このように、明治維新が達成されたころの日本をめぐる国際的環境は、一種の勢力の空白期でもあったのである。

1871年以降は、新興国の台頭もあって、列国はすさまじい帝国主義的な植民地分割に乗り出すのであるが、日本はその間に国力をつけ、流れに食い込もうとするのである。(p.87~88)