ギリギリの岐路に立つ被災地・東北~未来を変えるには今しかない
リレー読書日記・熊谷達也
2011年3月14日の仙台空港付近〔PHOTO〕gettyimages

5年間の苦闘の記録

震災関連の諸々(講演やらラジオ収録やらインタビューやら)が、ようやく一段落した。やれやれと一息つきたいところだが、このところ、自分の新刊の販促活動でなかなか忙しい。

新刊の舞台のモデルである気仙沼市で、3月12日に小さなトークイベントを開催したあと、最近は、仙台の書店さんのスペースをお借りして、ブックトークなるものを行っている。

普通の講演会では絶対に話さないような、新刊にまつわる裏話的なトークをさせていただいているのだが、その際、聞き手になってもらっているのが、仙台市の出版社「荒蝦夷」の代表、土方正志氏である。

その彼が、久しぶりに自分の本(元々はジャーナリストである)を出版した。タイトルはそのものずばり『震災編集者』。

著者の土方さんとは、かれこれ15年あまりの付き合いになるのだが、初期の『別冊東北学』から始まり、最近は『仙台学』を中心として、地域に根差した良質な出版活動を続けていた。そこに5年前の東日本大震災である。

なにせ、社員が本人を含めてわずか2人の、常に自転車操業の超零細出版社のこと、この震災で倒産を余儀なくされるのではないかと危惧した。それは私だけでなく土方氏自身も同様だったようだ。

ところがそこで、神戸をはじめとした(著者は、阪神淡路大震災の取材を長期にわたって行っている)全国の数多くの書店さんから、「荒蝦夷を潰させはしない」が合言葉となって、続々と救いの手が差し伸べられることになる。

具体的に何がどのようにかは、本書を手に取っていただくとして、この小さな地方出版社と、そこで作る本や雑誌が、どれだけ現場の書店員さんから大切にされ、愛されてきたのかを物語るエピソードだ。

ともあれ、本人が「日記のごとき記録」と呼ぶ本書は、被災地の一出版人の5年間の苦闘の記録であると同時に、著者と荒蝦夷を取り巻く様々な人間模様が浮かび上がってくる。単なる記録を超えた、優れた群像劇としても楽しめる一冊だ。