作家・梶よう子さんの「人生最高の小説10選」
妄想を喚起させる読書の魅力

非情さに隠された素顔に惹かれた

小さい頃は病弱で、病院へ行くか、家で寝ていることが多かったんです。母はいつも、病院の近くの本屋さんで本を買ってくれました。絵入りの『小公女』とか、『フランダースの犬』とか。

それで習慣がついていたので、幸い健康体になって外で遊ぶようになった小学校3~4年生以降も読書は欠かせないものでした。親は兄のために『ああ無情』など、少し年上の子が読むような本も買っていたのですが、スポーツ少年の兄はちっとも読まないので、私が代わりに読んだりして。重厚な歴史物や伝奇物が好きになったのも、この頃です。

ドラマや映画で時代劇が好きだったこともありますが、学生時代に浮世絵の魅力に引き込まれて以来、時代小説を多く読むようになりました。今回上位にあげた作品も時代小説好きとして、はずせないものばかりです。

1位にあげた『鬼平犯科帳』は長年、ドラマで主人公の鬼平こと長谷川平蔵を演じている中村吉右衛門さんの人情味あふれるイメージが強いかもしれません。でも、実は原作小説の初期には、非情さが怖いぐらいのキャラクターだったんです。えぐい拷問をしていたりとか。

それが回を追うごとに人情味が出てきた。鬼平という人物の魅力、それを描く池波正太郎さんの筆力が鬼平を「上司にしたい時代劇キャラNo.1」に選ばれるほど愛される人物にまで高めていったんでしょうね。

ただ男性著者らしく、「女は男によって変わるのだ」ということがよく書かれているのには女性として「ちょっと待って」と思うんですけれど(笑)。

2位の『三屋清左衛門残日録』は藤沢周平作品。主人公の清左衛門は、まだそれほどの年齢ではないのに隠居の身となるんですが、持ち込まれるさまざまな事件を、あまり波風を立てない形で解決していくんです。

タイトルにもある「残日録」の真意は、「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ」。残り少ない人生を漫然と生きるのではなく、しっかり「その後」を考えるということ。人生を見つめる武家の在り方にとても感銘を受けました。