サッカー人生を左右する、代理人とのすれ違い
松原良香Vol.10
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代理人の腕が、サッカー人生を左右する

言葉、風習の違う国へ移籍する場合、鍵となるのは代理人である。

代理人の職務は、選手と代理人契約を結び、選手の代わりにクラブと交渉して契約をまとめることだ。契約成立の暁には、契約金あるいは年俸から一定のパーセンテージの手数料を受け取る。そのため彼らは、顧客選手が一つのチームに居続けるよりも、大金が動く移籍を薦める傾向がある。

サッカー選手の“賞味期限”はそれほど長くない。脂の乗った時期にどのクラブに売り込むのか。代理人の腕が、選手のサッカー人生を左右することも少なくない。

松原の代理人は、三浦知良のジェノア移籍をまとめたイタリア人――Mだった。

松原はMから突然呼び出されてスイスのFCチューリヒのテストを受けることになった。1試合目ではそれなりの結果を残し、監督から翌日の練習試合に出したいと言われた。相手はドイツの名門バイエルン・ミュンヘンだった。多少走り込んでいたが、やはりオフシーズン明けの躯だった。各国代表揃いのバイエルンを相手に自分の力が出すことはできず、テストには合格できなかった。

悔しく思った松原は1ヵ月半、チューリヒに居残ることにした。FCチューリヒの練習に参加し、躯をシーズンに向けて作ったのだ。ただし、滞在費は自費である。当初、Mは後から自分が払うと言ったが、その約束は守られなかった。

クロアチアのリエカが望んでいた契約延長の話はすでに霧散していた。各国リーグが始まろうとしている中、松原は焦っていた。松原はMに「早くクラブを決めてくれ」と訴えた。すると彼はこう答えた。

――良香を2部でプレーさせたくないんだ。

松原はこう振り返る。

「1部のチームがあるならばそれでもいい。でもないって言うんですよ。じゃあ、どこでもいいからやらせてくれと。そうしたら、ギュータースローというクラブの話を持ち込んできたんです」

Mは松原にこう説明した。

――今季は3部リーグにいるが、昨シーズンまでブンデスリーガの2部にいた。ドイツでは3部までをブンデスリーガと呼ぶ。そこで試合に出られれば、ドイツの場合はすぐに次のチャンスが来る。

そしてクラブのレターヘッドに書かれた条件を見せた。

「月50万円ぐらいでしたかね。家と車、日本往復のチケットつき」

悪くない話だった。