上がらなければ嬉しい。でも、上げないと社会保障制度が破綻する? 夏の選挙を前に、にわかに政争の具にされ始めた消費増税——。どちらが正しいのか。
元大蔵事務次官、メガバンク頭取、上場企業社長、全国紙経済部記者ら経済のプロ100人に聞いた。
「中国をはじめとして世界経済の状態が悪く、日本の景気が明るいとは思えない。過去の例を見ても増税が消費を細らせ、そこからの復活に相当な時間を要することは明らか。だから消費税を10%に上げるべきではない。
消費者に与える心理的な影響として、一桁と二桁では相当な違いがあるようにも思われる。現在の社会保障制度や財政赤字の規模から考えて、消費税はいずれ必ず上げなければいけないが、急ぐ理由は見当たらない」(神戸学院大学教授・中野雅至氏)
安倍総理は迷っているはずだ。消費税を10%に上げれば、消費は大きく落ち込む。上げなければ、公約違反でアベノミクスの失敗だと野党に責められる。
だが、そんなことを考えている場合ではないと、ファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏は言う。
「いまだに個人消費が'14年4月に行われた8%への消費増税の影響を引きずっている。そんな中、10%に引き上げれば、消費はますます低迷。内需が盛り上がらずに景気後退し、不景気に突入する。
消費税率を上げたら、税収が減少するという本末転倒な結果を引き起こしかねない。景気を回復させるためには、逆に一時的にでも5%に下げたほうがいい」
'14年末に消費増税を延期した際と同じロジックで、景気を最優先したほうが結果的に税収増につながり、財政が改善するという考え方だ。
信州大学教授の真壁昭夫氏は、安倍総理は現状では消費税を上げないのではないかと考える。
「昨年11月から景況感が著しく悪化している。個人消費が落ち込む一方、食品価格が上がるなど、庶民の生活が苦しくなっている。円高に振れていることもあって企業業績も目先、悪化しており、従業員の給料も上がらない。それでも増税に踏み切れば、夏の選挙で与党に逆風となる。政権が消費税を上げないことを選択してもおかしくない」
それに対し、消費税を断固として「上げるべき」と答えたのは、大蔵省(現・財務省)元事務次官の薄井信明氏だ。
前回の延期後に安倍政権は、景気が悪化した時には増税を停止する「景気弾力条項」を撤廃した。次は景気が悪くても必ず増税を実行すると、有権者に向けて約束したのだ。薄井氏は安倍総理の約束が反故にされるはずはない、と主張する。
「日本経済はやや停滞気味だが、雇用、企業業績などは高い水準を維持している。世界経済も安定に向かっており、現状からはリーマン・ショック級の重大事態が生じるとは考えられず、再延期すべきではない」
やはり、「リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない」という前提だが、3メガバンクの一角、三井住友銀行頭取の國部毅氏はこんな意見だ。
「社会保障の充実のための安定財源の確保、財政に対するマーケットや国際社会からの信認確保などは極めて重要な課題であり、消費税率の引き上げは予定通り実施すべきと考えている」
津賀一宏社長が率いるパナソニックも社としてこう回答を寄せた。
「財政再建と持続可能な社会保障制度の維持のため、消費税を10%に上げるべき。同時に消費税引き上げ前後の激変(前倒し需要とその後の反動減)を緩和する政策や消費喚起策、財政・金融による経済対策が必要」
経団連が消費増税を「予定通りに行うべきだ」(榊原定征会長)と強調するように、財界は消費増税の方向で足並みを揃える構えだ。