なぜ北方領土問題はいまだ解決しないのか~日露関係を動かす「4つの提案」をここに示そう

岩下 明裕
このエントリーをはてなブックマークに追加

「安倍首相と側近は、北方領土問題は二島返還でしか解決しないとようやくわかったようだ。あとはプラスαだが、やはり海を40%くらいもらえればということらしい。だけど日本がロシアへの制裁を解除するのが前提のようだ。日本がいまそれをやるのは難しいはずだから、このディールは成立しないだろうな」

私はその話にこう反論した。首相が二島返還で決断などできるはずがない。最近は経済も落ち、自民党議員のスキャンダル続出で、政権の先行きに陰りが出てきている。ここで二島返還なんて言ったら、政権は終わるのではないか。

いくら最近の世論調査で「四島返還は無理」と言う声が多数であっても、この状況でいざ踏み込んだら、世論はついていかない。自分で約束した消費税増税を新たな理屈をつけて撤回しようとしたり、安保法制が議論の焦点にならないように臨時国会召集を回避したり、あの手この手でせっかくここまでしのいできたのがおじゃんになってしまうだろう。

ノーベル平和賞受賞者を招待して「二島返還が世界のため」と言わせたって、ナショナリズムを誘発しやすい領土問題と、(自分の約束を反故にするとはいえ、国民は嬉しいに決まっている)ポピュリスト的な増税回避の判断とは次元が違う。また、北方領土問題の解決と「改憲」を天秤にかけても、首相の優先順位が後者にあるのは明らかだ。

領土問題を外して日露関係をみる

日露関係を北方領土問題というプリズムを通じてみるかぎり、今回もまた議論は堂々巡りだ。しかし、領土問題という眼鏡を外してみたとき、日露関係には様々なのりしろがあるのも明らかとなる。

例えば経済。原油安や制裁に端を発した昨今のロシア経済の減速により、2013年に348億ドルに達していた日露貿易額は、14年には341億ドルと微減、15年にはかろうじて209億ドルを上回る程度と激減する。にもかかわらず、その目減りは欧州の主要国、ドイツ、イギリスなどと比べれば少なく、ロシアの貿易総額全体の目減りよりも低い(ロシアNIS貿易会による)。

むしろ着目すべきは、LNGプラントなどのエネルギー協力は堅調で日本側の輸入量はほとんど減っておらず、価格の下落が輸入額を押し下げている。ロシアが欧米の制裁強化により、日本に期待を高めているのは確かだろう。ただし、そもそも制裁と距離を置く中国やインドとの関係がより高まっている点を看過し、期待を評価しすぎるのは誤りなのだが――。

戦略的な観点からいえば、原子力協定もあり、海事協力など一定の成果もある。ロシアが中国を意識しているというのもあながち間違いではない。

とくに地図を見れば一目瞭然だが、ベーリング海、オホーツク海から日本海、東シナ海という太平洋につながる「ユーラシア大陸の内海」は、北域の島嶼はロシア、中域から南域の島嶼にかけては日本が支配している。領土問題さえうまくコントロールできれば、ユーラシアから太平洋への出口はロシアと日本の「二人占め」となる。

翻って、中国からみれば、日本ほど邪魔な存在はない。地政学的に整理すれば、これはロシアにとって、中国と組んで大陸に力点を置くか、日本との関係を改善して海の管理を重視するか、という問いとなるが、現状ではあきらかに前者にバランスが偏っている。これを是正して日本ともっとつきあいたいというのが自然な流れだろう。

ただこれを「中国が怖いからロシアはいずれ日本に擦り寄ってくる(だから島を返してくれる)」などと思い違いしないことが肝要だ。中露関係には、かつてソ連時代には国境紛争、核戦争前夜の緊張を乗り越えて和解し、新生ロシアになってからは領土問題を解決し、シベリア極東への中国人移民問題などを管理してきたという実績がある。

ロシアから言えば、70年近く旧態依然の関係にとどまっている日本とのその現状に過大に依存する必要などない。むしろ、「中国が怖くて仕方がないのは日本だ」とロシアの多くの識者は(外ではあまり言わないが)内心思っていよう。

記事をツイート 記事をシェア 記事をブックマーク