一般教養としての「企業分析」
〜いい会社/悪い会社はこう見分けよ!

東大「最強ゼミ」が明かす
大熊 将八 プロフィール

居酒屋「ワイワイ」は、消費税の税率アップの際にあえて値下げをするなど激安路線をとっている新進気鋭のチェーン店だ。社員の離職率は極端に低く、学生アルバイトからは、時給の良さと、上下関係がゆるく和気藹々とした職場の雰囲気に絶大な人気があり、人手不足という外食産業に共通の逆風をものともせず急速に店舗数を増やしていた。

「……そうだ。学生バイトさんには楽しく働いてもらえ。徹底的にもてなしてキツい仕事はやらせるな。毎月行われる店長研修でエリアマネージャーから叩き込まれることだ」

「そしてその裏で、ツケはすべて店長に回される。なのに、どうしてあなたは辞めないの? 完全に会社に洗脳されてしまったの?」

「うちの社員は、オレみたいに痴漢で懲戒免職になった公務員や、使い込みが発覚して会社にいられなくなったような、ワケありなヤツばかりなんだよ。ワイワイ様だけが拾ってくれたんだ。誰も逃げ出すわけがないし、秘密が外に漏れることはない」

「上司に殴られても『叱っていただいてありがとうございます』だものね」

「ああ。ところで、マオちゃん、なんでオレがこうやってぺらぺら君に話すかわかるか?」

いつの間にか、店長の手の震えは止まっている。虚ろだった目にも生気が宿り、マオを射抜くように見つめている。

「え?」

「もう、君を、生きて帰すつもりがないからだよ」

と言うなり店長は、勤務中には見せたことがない薄気味悪い表情でマオに襲いかかり、床に組み伏せた。

「きゃあっ」

押し倒された際にマオのブラウスの第2ボタンがはじけ飛び、白い肌が露わになる。店長は馬乗りになってマオの細い首を締めつけながら、ぶつぶつとつぶやいた。

「絶対に……絶対に、外に漏らすわけにはいかないんだ」

「やめて……店長……目を覚まして!」

「オレにとっては、ここがすべてなんだよ!」

「その子から離れろ!」

突如背後から野太い声がし、店長が思わず振り返った瞬間、大柄な青年が飛びかかる。重心の低いタックルが炸裂して、店長はテーブル席まで吹っ飛んだ。その隙に青年はマオの手をとり、非常口へと駆け出した。

「待てえええええ!」

そのすぐ後ろを、鬼気迫る表情の店長が追ってくる。

「カンタ、あそこよ」

外階段を駆け下りながらマオが地上のある一点を指差すと、カンタと呼ばれた青年はうなずき、マオを抱きかかえて手すりを越えた。

「何をする気だ?」

驚いた店長が思わず立ちすくんでいるうちに、宍戸カンタは迷わず3階から飛び降りる。ゴミ袋の山がクッションとなり無事に着地した2人の前に、マオが呼んでおいたタクシーが待ち構えていた。