なぜイスラーム国の「過激思想」に吸い寄せられる人が後を絶たないのか
テロの連鎖を食い止めるために
ベルギー連続テロ事件は筆者がブリュッセルに向かう日の朝に起こった(ブリュッセルにて/筆者撮影)


文/末近浩太(立命館大学教授)

ベルギーの首都ブリュッセルを狙った連続テロ事件は、欧州全土を震撼させた。

筆者は、今年の1月からフランス、モロッコ、ベルギーで現地調査を行ってきた。その目的は、現代のイスラーム主義に関する研究の一環として、いわゆる「過激思想」の痕跡を辿ることである。

今回の連続テロ事件が起こったのは、まさにブリュッセルに向かうその日の朝であった。ロンドンで事件の一報を聞いた瞬間、背筋が凍った。

モレンベークは「テロリストの巣窟」なのか?

なぜ、欧州ではこのようなテロ事件が繰り返されるのか。

日本での報道を見る限り、概ね次のような説明が確立しつつある。欧州で暮らすムスリム移民(およびその子孫)が、貧困や差別・偏見に苦しむなかで「過激思想」に傾倒してしまった――。

今回の事件に関して言えば、ブリュッセル西郊のモレンベーク地区が、その象徴として繰り返し取り上げられた。事実、パリとブリュッセルの両事件の容疑者たちのほとんどが、この地区に何らかのつながりを持っていた。

確かに、モレンベークは、ムスリムの数も貧困や差別・偏見も多い地区である。筆者が前回ここを訪れたのは15年ほど前になるが、その時と比べると街の様子は大きく変わっていた。

顎髭やヴェールの人びと、アラビア語の看板、ハラール食品店、そして、モスク――。事実、モレンベーク住民約10万人の半数がムスリム、うちモロッコからの移民とその子孫が8割を占めるという。

モレンベークは、失業率も犯罪発生率もベルギーのなかでは格段に高く、毎年住民の1割が入れ替わる人の出入りの激しい街でもある。そのためだろうか。日本の報道では、モレンベークを「テロリストの巣窟」などと形容し、路上にいる若者たちをドラッグの売人と決めつけるような扇情的な取材も見られた。

しかし、仮に貧困や差別・偏見が彼らを「過激思想」へと向かわせたのだとして、それにムスリムやイスラームがどのように関係しているのか、この説明だけでは判然としない。

多くの報道が、モレンベークの住民の多くがムスリムであることに触れながら、他方では、そのことが持つ意味については明確なかたちでは論じない。そこには、「ムスリム=テロリスト予備軍」という暗黙の前提がないだろうか。