原子力規制委を「規制」する、この奇妙さ

原子力政策の正常化が進むのか?

今月16日の日本経済新聞ネット記事〔☆1〕に、『規制委の活動、第三者が検証 制度導入』と題する記事が掲載された。原子力発電所などに対する原子力規制委員会の活動について、「外部から検証を受ける仕組みを導入する」との由である。

☆1:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG16H0K_W6A310C1EAF000/

その場合、最初にやるべきことは、いわゆる“田中委員長私案”〔☆2〕という法的根拠のない私文書を根拠として、原子力発電所の再稼働を強制的に停止させ続けている今の規制運用を、早期に是正することである。この私案とは、原子力規制委の田中俊一委員長が作成したとされるもの。この問題については、これまでも拙稿〔☆3、☆4〕などで再三再四提起してきた。

☆2:https://www.nsr.go.jp/data/000058874.pdf
☆3:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47999
☆4:http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/44915

2011年3月の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故の後、原子力規制委が制定した“新規制基準”に適合していると認められなければ、日本の全ての原子力関連施設は稼働ができない状況にある。諸外国の原子力規制や他の産業保安規制では到底考えられないような“バックフィット”を強いられている。

バックフィットとは、最新の技術的知見を技術基準に取り入れて、既に運転をしているプラントにもその最新基準への適合を義務付けること。即ち、“法の遡及適用”だ。

このバックフィットにより、震災前に比べて、年間2~4兆円規模の追加エネルギーコストを日本国民は負担している。これは看過し得ない。しかし、あまり報道されていないせいか、マスコミなどでは大騒ぎになっていないのが実情だ。

次にやるべきことは、原子力規制委の中に、これまた法的根拠のない“有識者会合”を設置し、活断層に関する評価をさせている現状を速やかに正すことだ。この問題も拙稿〔☆5〕などで何度も提起してきた。

☆5:http://www.huffingtonpost.jp/kazuo-ishikawa/shiga-nuclear-plant_b_9408452.html

科学的評価として大いに疑問がある“活断層の可能性あり”との判断によって、日本原子力発電の敦賀原子力発電所2号機、北陸電力の志賀原子力発電所1・2号機、東北電力の東通原子力発電所1号機などが廃炉に追い込まれようとしている。

これらが高稼働率で稼働した場合、火力発電の代替として年間2600~3800億円のコスト削減能力を持っている。こうした低廉かつ安定的な電力供給システムを科学的に大きな疑問のある理由で廃止に追い込むのは、国家的な損失に他ならない。

他にもやるべきことは多い。原子炉の寿命に関する“40年ルール”を見直すことも急務だ。このルールは、米国の制度を参考にしたとされているが、当の米国でも“40年閉鎖”には科学的根拠はないことなどを、私はデール・クライン氏(米国原子力規制委員会(NRC)の元委員長)やレイク・バレット(NRCの元幹部;1979年の米国スリーマイル島原発事故の現地対策ディレクター)から直接伺った。詳しくは、拙稿〔☆6〕を参照されたい。

☆6:https://diamond.jp/articles/-/77976

これらの問題が冒頭の記事〔☆1〕にある「第三者の検証」により改善されるのだろうか?

この記事の基になった今月16日の原子力規制委の会議資料〔☆7、☆8〕と議事録〔☆9〕を確認したが、残念ながら期待外れであった。

☆7:http://www.nsr.go.jp/data/000143651.pdf
☆8:http://www.nsr.go.jp/data/000143653.pdf
☆9:http://www.nsr.go.jp/data/000144212.pdf

「第三者」が検証する範囲が、非常に狭く限定されているのだ。今年1月、原子力規制委は「総合原子力規制評価サービス(IRRS)」ミッションによるレビューを受けた。これは、各国の規制機関等の専門家によって構成されるミッションが、日本の原子力安全規制・制度に関して、国際原子力機関(IAEA)の安全基準との整合性をレビューするもの。

先の会議資料〔☆7、☆8〕には、「第三者的立場」から調査審議する内容は、「IRRSにおいて指摘された事項に対する原子力規制委員会の取組状況の評価や助言を行う」と記載され、「IRRSにおいて明らかになった課題」には、「安全文化の構築」、「審査結果等の許認可取得者への連絡」、「検査制度の改善」、「人材育成」など30項目に限定されている。

ここには、先に述べた“田中私案”、“活断層問題”、“40年ルール”などの項目は見当たらない。

今年1月の産経新聞社説「IAEAの評価 適正な原発審査に生かせ」〔☆10〕では、IRRSについて、「規制される側の東京電力と関西電力にも聞き取り調査を行い、問題点を立体的に捉えようとした。その努力を多としたい。

だが、残念なことに、断層調査で規制委との対立点の多い日本原子力発電などに実情を聞いていない。実施していれば、科学的な反論に耳を傾けようとしない規制委の問題点などが、より鮮明に浮かんだことだろう」と指摘している。この社説が説いているように、このIAEA評価には肝腎な部分が抜け落ちている。これでは全然ダメだ。

☆10:http://www.sankei.com/column/news/160124/clm1601240004-n1.html

どのような人々が「第三者」に選ばれるかはまだ判明していないが、原子力規制委がお膳立てした項目に拘泥するのではなく、日本の原子力規制が真っ当な方向に進むような調査審議を行い、今回の取組みが電気料金値下げとエネルギー安全保障水準の向上に資する『原子力政策運営の正常化』に繋がることを祈念する以外にない。

しかし、どうであれ、新しい規制当局を更に新たに規制しなければならないなどというのは、愚かとしか言いようがない。本来ならば、原子力規制委の規制運用そのものを改善することが先決なのだ。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら