読書人の雑誌『本』
“奴隷”と呼ばれた青春時代、体罰・しごき・上下関係は「日常」だった
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(文/栗山圭介・マロンブランド代表)

バラ色の東京暮らしに憧れて上京したのに…

あの“暑苦し切ない”日々が、青春のすべてだった。

飲むとかならずと言っていいほど大学時代の話をする。誰もが時代劇でも聞くような顔をして、半信半疑で笑い転げながら、「マジ?」と連発する。あの頃の国士舘は、そんな学校だった。

主人公の孝介は、シティボーイを目指して上京するが、入学式で楽団が演奏する軍艦マーチの中をオープンカーで入場する総長先生を見て愕然とする。めかしこんだアイビールックは黒ずくめの制服集団の中で浮き上がり、「うそだろ」と失意を覚えながら、涙目で万歳三唱で諸手を挙げる。

教室では全国から集まった猛者たちが、挨拶がわりに拳でやりあっている。「誰がいちばん強いか」が、このクラスでは重要だ。見れば寮生の連中は腫れ上がった顔に青タンを重ねている。

それぞれの運動部内ではすでに序列が決まっていて、腕のたつ連中が部の威信をかけて日々バトルを繰り広げているのだ。

孝介たち“私服組”は端に追いやられ、入学早々、居場所をなくし打ちひしがれる。小柄で人の良さそうな主事の老人は、神聖な教室をかき乱す暴徒たちに涙ながらに鉄拳制裁を加え、国士舘精神を注入する。バコッ、ビシッ、ドスッ、鈍く渇いた音がしない日はない。

思い描いていたバラ色の東京と対極にある大学で、孝介は、生きていくための“手段”を見つける。猛者たちの睨みを躱し、戦意を封印するためにピエロを演じるのだ。それは孝介にとっての、絶対に負けられない戦いだった。

そんな孝介に、眉のつり上がっていたクラスメイトたちが、ひとりふたり、心を寄せてゆく。本当は誰もが“奴隷”と呼ばれる1年生の日々の恐怖から逃れたいのだ。