読書人の雑誌『本』
円から楕円へ……この一歩に潜む「曲線」の秘密
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文/松下泰雄(大阪市立大学数学研究所員)

デカルトもさじを投げた曲線の計算

自然界に溢れている曲線、生活の中の曲線、芸術の世界の曲線など、曲線といっても千差万別あります。数学や物理の世界でも、たくさんの曲線があらわれます。

……と言ったとたん、いやー数学! えーっ物理の話? なんて思う方も多いかもしれませんが、そんな人たちへの肩のこらないお話です。

まずは曲線の長さです。ある地点から別の地点まで一番短いのは直線です。でも実際に必要なのは、出発点から目的地へ至るまでの道のり距離ですから、道に沿っての曲線の長さということになりますね。ところで、曲線の代表の円の長さはというと、直径に円周率3.14をかければ得られます。

円周率は、3.14159……のように小数点以下が無限に続く無理数です。地面に描いた直径10メートルの円に沿って歩くと長さは約31.4メートル、すなわち直径の約3倍歩くことになります。とにかく円ならば直径の約3倍が円周なのです。

では円を潰した楕円はどうでしょう。いかに僅かな変形でも楕円になったとたん長さの計算は極めて難しくなります。楕円には円周率に代わる魔法の数はありません。

実は17世紀に入っても、曲線の長さの計算は全くできなかったのです。あのルネ・デカルトも「我々人間は、直線と曲線の関係を知ること(同じ長さの直線を知ること)はできないだろう」と述べています。

やがて1658年に英国のクリストファー・レンという人が、サイクロイドという曲線の長さの計算に成功しました。オランダのクリスティアン・ホイヘンスは、レンに「素晴らしい発見で、長さが測られた最初で唯一のものでしょう」と手紙を書いています。それ以来、いろいろな曲線の長さが計算できるようになりました。