賢者の知恵
2016年03月27日(日) 松本太

170万人が殺され、2500万人が難民に…
駐シリア・日本人外交官が見た「中東の新たな戦争」

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【PHOTO】gettyimages

「戦争反対」の声すら上げられない

混迷を極めるシリア情勢。その犠牲者は30万人とも言われている。昨年10月に駐シリア臨時代理大使に任命され、『世界史の逆襲』を上梓した外務省・松本太氏の緊急リポート。

想像してみてください。

わずか4年の内に日本の全人口の一パーセント以上の170万人が殺され、全人口の五分の一にあたる2500万人が国外で難民となり、4000万人近くが国内避難民となる事態を。そして、日本のほとんどの地域で近隣諸国の支援を受けた各派による戦いが継続し、東京にすら迫撃砲の砲弾が毎日のように降り注ぐ情景を。

そのような事態が突如として日常になってしまった国があります。シリアです。

シリアでの犠牲者は30万人とも言われます。国連は、シリアでの死者の統計をとることを、昨年夏にすでにやめています。近隣国に避難したシリア難民は正式に登録された者だけでも460万人(2015年12月末、UNHCR統計)になろうとしています。

シリアでは760万人が国内避難民となるとともに、456万人が人道上の危機に直面しています。そしてシリアの首都ダマスカスにすらも迫撃砲が落ち、死傷者がでています。人口2250万人ほどのシリアは、「戦争」の只中にあります。

それに、その戦争から抜け出す手掛かりが、いくら首をひねっても出てこないとすれば、絶望しないほうが不思議でしょう。あなたが世界の人々と同じ言葉で心から戦争反対を叫ぼうとするならば、シリアでの戦いを食い止めようとする覚悟が必要なのです。そうでなければ、シリアの人々はあなたを偽善者だと糾弾するでしょう。

それほどまでにシリアの状況は深刻なのです。どうか日本はシリアから遠くてよかったなどと言わないでください。シリアの問題はすでに「わたしたちの問題」なのですから。

戦争反対を叫ぶことができる日本とは異なり、現在のシリアでは「戦争」に対して反対の声をあげることもできません。なぜなら、生き残るためには敵と戦わなくてはならないと多くの人々が確信しているからです。ちょうど宗教改革の嵐の後で、トマス・ホッブズが自然状態の中では「万人の万人に対する戦い」が行われると記したように。

世界の多くの地域で起きている現代の「戦争」は、第二次世界大戦で行われたような国家間の総力戦とは、もはやまったく異なったものになっています。シリアでの戦いもその一つです。

もともとシリア国内での騒乱だったものが、アサド大統領がかつて呼んだとおり、国外勢力が関与する「真の戦争」になりつつあります。そのような新しい戦争を終わらせ平和を希求することが、世界と共存する私たちに課せられた重い課題なのです。

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