読書人の雑誌『本』
プロが教える「引き算」の介護
〜認知症「困った行動」を減らすにはコツがあった


文/右馬埜節子(認知症相談員)

実は介護される側も不安に思っている

トシオさん(72歳)はアルツハイマー型認知症です。この病気と診断される少し前から、おかしな行動をとるようになりました。服を着たままお風呂に入るようになったのです。

たとえば、Tシャツ姿のまま湯船にザブンと浸かります。お風呂から上がると、体を拭かずにリビングに向かいます。そしてテーブルの上に濡れたTシャツを広げ、手の平で丁寧になでてのばすのです。

当然、リビングは水浸し。同居している家族が後始末をすることになりますが、認知症のトシオさんはそんなことは意に介さず、しょっちゅう「服を着たままザブン→リビングへ」をくり返します。「やめて!」と言ってもやめないし、「服を脱いで!」と言い聞かせても理解してくれないので、家族は困り果てていました。

このような困りごとを抱える人のお話を聞き、必要な介護サービスへとつなぐのが、認知症相談員である私の仕事です。かれこれ20年、2000ケース以上の相談に応じてきましたが、認知症の人がとる行動は様々で、いつも驚かされます。「なんで私をクビにしたの!」と近所の薬局に怒鳴り込む女性。外出すると必ず花を盗んで帰ってくる男性。さっき食べたばかりなのに、「ご飯まだ?」としつこく食事を要求する女性―。

家族や介護職員からは、「困った」「どうすればいいのか」という声が聞こえてきます。そして認知症の人も、周囲とことあるごとに衝突するため、不安のなかで苦しんでいます。

私が介護の仕事に携わるようになった頃は、認知症に関する資料も情報も少なく、教えてくれる人も学校もありませんでした。いまは「認知症」という言葉を目にしない日はなくなり、書店にもインターネット上にも情報があふれかえっています。ですが、残念ながら困っている人の数は減るどころか増える一方です。