防衛・安全保障 国際・外交 テロ 国家・民族 アメリカ ロシア シリア

これでわかる「シリア内戦」の全貌〜そしてイスラーム国が台頭した

絶望が世界を覆い尽くす前に
末近 浩太 プロフィール

三つ巴の戦いが生み出した停滞と変化

ISの台頭は、シリア「内戦」の三層構造の対立図式に停滞と変化の両方をもたらした。

停滞としては、アサド政権と反体制諸派にISを加えた「三つ巴」の複雑な戦局を生み出したことで、「内戦」解決のシナリオをいっそう混乱させた。

国際社会にとっての脅威はアサド政権ではなくISである、という認識が急速に広がったことで、アサド大統領の退陣を既定路線とする欧米諸国主導の取り組みが難しくなったのである。アサド政権は、ISに対峙する自らを「対テロ戦争」の最前線を担うものとして正当化するチャンスを得ることとなった。

 

他方、変化としては、ISを共通の敵とする「三つ巴」の戦いの対立図式が顕在化したことで、結果的にアサド政権と反体制諸派、そしてそれぞれを支持するプレイヤーたちの間のデタント(雪解け)の兆しを生んだ。

特にアサド政権の存続を消極的に承認した、ないしはISとの戦いでの利用価値を見いだした欧米諸国は、それまでの反体制諸派への一辺倒な肩入れを見直し始めた。

この変化を象徴したのが、2014年8月に発動された米国主導の「有志連合」によるISをターゲットにした軍事介入であり、2015年7月のイランの核開発疑惑をめぐる同国と米国を筆頭とする6ヵ国との間の「包括的合同行動計画」の合意であったと見ることができよう。

ジュネーヴ・プロセスの交渉の行方は未だ不透明だ〔PHOTO〕gettyimages

ジュネーヴ・プロセスとは何か

シリア「内戦」は一体、どのように解決されるべきなのか。実は、「内戦」開始から約1年後の2012年6月、関係各国が参加したジュネーヴでの国際会議が開かれた時点で、その大枠はつくられていた。

その大枠を一言で言えば、「内戦」は、特定の勢力の軍事的な勝利ではなく、シリアの「国民的対話プロセス」を通して政治的に解決するべきである、というものであった。シリア人の、シリア人による、シリア人のための和平へのプロセスと言い換えてもよいであろう。

この大枠に基づく「内戦」解決に向けた営みは「ジュネーヴ・プロセス」と呼ばれ、2014年2月(ジュネーヴ2)、2016年1月(ジュネーヴ3)と2度にわたって国際会議が開かれてきた。しかし、国連安保理常任理事国5カ国を含む関係各国による交渉はいずれも物別れに終わり、その結果、シリア国内での戦闘は続いた。

なぜ、ジュネーヴ・プロセスの交渉は決裂を繰り返したのか。

第1に、アサド大統領の処遇が争点化したことあった。シリア人主導の政治的解決にアサド大統領自身が含まれるかどうかについて、プレイヤー間で意見の相違が見られるのは道理であった。

第2に、政治的交渉を有利に進めるために軍事的な優勢を確保したいという様々なプレイヤーの思惑があった。誰もが相手の喉元に刃を突きつけた有利な状態で話し合いを始めたかったのである。

第3に、反体制諸派の足並みの乱れがあった。彼らには、国内組と海外組の拠点の違い、世俗主義とイスラーム主義というイデオロギーの違い、民主化運動と革命闘争という目的の違い、政治的解決と軍事的解決という手段の違い――少なくとも4つの変数によるバリエーションがあった。

しかも、外国人戦闘員の大量流入や政治的・軍事的環境の変化によって、日々、様々な組織が離合集散を繰り返すような状況にあった。

新生・ブルーバックス誕生!