防衛・安全保障 国際・外交 テロ 国家・民族 アメリカ ロシア シリア

これでわかる「シリア内戦」の全貌〜そしてイスラーム国が台頭した

絶望が世界を覆い尽くす前に
末近 浩太 プロフィール

破綻国家に寄生したIS

長期化する「内戦」で消耗したアサド政権と反体制諸派の間の「漁夫の利」を得るかたちで急速に台頭したのが、「イスラーム国(IS)」であった。

「内戦」による混乱と破壊は、シリアをいわゆる破綻国家の淵へと追いやっていった。中央政府による統治や国民としての一体感が失われていくなかで、国内外から参戦した過激なイスラーム主義者たちの存在感が増していった。当初は「助っ人」であったはずの彼らは、反体制諸派の戦闘能力や組織規模を徐々に凌駕するようになった。

そして、その一部の組織が、破綻国家となったシリアの領土の一部を実効支配するようになり、2014年6月、同国北東部の街ラッカを「首都」とする「国家」の建国を宣言したのである。

ISの前身は、2003年のイラク戦争後に結成された「イラクのアル=カーイダ」である。同組織は、イラク領内で「異教徒」の軍勢である米軍と「背教者」の政府である新政権に対する武装闘争を繰り返したが、戦後復興が進んでいくなかで徐々に衰退していった。

彼らを結果的に救ったのが、隣国シリアの「内戦」であった。ISは、破綻国家となったシリアという新たな宿主を見つけ、そこに寄生し資金、武器、人員を獲得することで蘇生したのである。

 

ISが提示する「歪んだ希望」

なぜ、中東の内外からISに合流する者が後を絶たないのか。

そこには、ISが、豊富な資金を駆使した巧みなリクルートを行っていることの他に、混迷の色を深める「アラブの春」後の中東において、新たな秩序の青写真を見せることに成功している点が挙げられる。

その新たな秩序とは、彼らが理想とする「イスラーム国家」の建設であり、現行の国民国家とはまったく異なる統治の原理(イスラーム法による統治)と領域の設定(超領域的な国家建設)を特徴とする。

ISは、自由、人権、民主主義、さらには「世界遺産」といった現代世界における「普遍的価値」をグロテスクなまでに否定することで、その新たな秩序の「新規性」をアピールしている。

世界遺産・パルミラ遺跡の凱旋門もISによって破壊された(写真は破壊前のもの)〔PHOTO〕gettyimages

こうした過激主義は、平時であれば多くの人びとに支持されることはないだろう。しかし、現実にはISへの支持者や参加者は増え続けている。それは、「アラブの春」後の中東が政治的混乱していることだけではなく、「民主主義」や「市民の力」が政治や社会の諸問題を解決する力を失ってしまったことの証なのかもしれない。

ここで考えなくてはならないのは、今日の世界において、政治的な混乱は中東に限ったことではない、という事実である。混乱と呼ぶほどではなくとも、差別や貧困などの社会問題が深刻化している国や地域は無数にある。

しかし、かつての冷戦期のように、これらの諸問題の解決を約束してくれる強力なイデオロギーも、「壁の向こう側」のユートピアも、もはや存在しない。

ISが提示する新たな秩序は、実際にはそれがディストピアであったとしても、いや、むしろ徹底したディストピアであるからこそ、民主主義、自由主義、資本主義の三位一体が席巻した今日の世界に対するアンチテーゼとしての魅力あるいは「魔力」を醸し出すことに成功している。それが、中東だけではなく、世界の各地から共感者や参加者を獲得し続けている理由の1つであろう。

だとすれば、ISが提示する新たな秩序は、「アラブの春」後の中東で生まれた「絶望」だけでなく、「壁の向こう側」がなくなった冷戦後の世界に沈潜してきた「絶望」から生まれた「歪んだ希望」と見ることもできる。

新生・ブルーバックス誕生!