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これでわかる「シリア内戦」の全貌〜そしてイスラーム国が台頭した

絶望が世界を覆い尽くす前に
末近 浩太 プロフィール

国外からの武器流入

しかし、アサド政権は倒れなかった。ここで注目すべきは、軍の役割である。

シリアの政権軍、とりわけ精鋭部隊は、アサド大統領の親族や側近に率いられた「家産化された軍」であった。すなわち、政権が革命の危機に瀕したとき、その防衛のために市民に躊躇なく銃口を向けられる私兵部隊と化していた。これは、国家と国民の利益を考慮して最終的に大統領を見捨てたエジプトの「制度化された軍」とは対象的であった。

だとすれば、軍事力で優る政権軍が反体制諸派を圧倒することで「内戦」は早々に決着がつくはずだった。しかし、実際には、反体制諸派はアサド政権に対する攻勢を強めていった。

なぜ、反体制諸派は政権軍と対峙し続けられたのか。それは、次の3つのプレイヤーが、シリア国外から武器や資金を提供したからであった。

第1に、米国、欧州連合、トルコ、サウジアラビアなどの湾岸産油国である。これらの諸国は、独裁者であるアサド大統領の退陣を求め、反体制諸派をシリアの「正式な代表」として政治的・軍事的に支持した。

第2に、シリア国外で活動してきた反体制派の諸組織である。彼らは、アサド政権の反体制派に対する弾圧や取り締まりを逃れて、数十年にわたって欧州や中東の各国で細々と活動してきた。「アラブの春」は、祖国への帰還と政権奪取のための千載一遇のチャンスであり、国内で蜂起した反体制諸派を支援した。

第3に、過激なイスラーム主義者である。彼らは、独裁政治と社会の「脱イスラーム化」を行ってきた「不義の体制」であるアサド政権を打倒するために、世界中からシリア国内の反体制諸派に合流していった。

この3つのプレイヤーはそれぞれ異なる背景やイデオロギーを有しながらも、「アサド政権の打倒」で奇妙な一致を見せ、シリア国内の反体制諸派の勢力拡大を後押ししたのである。

 

代理戦争としてのシリア「内戦」

反体制諸派の攻勢に伴い、アサド政権側の損害も大きくなっていった。

こうしたなか、国際政治において欧米諸国の影響力拡大を嫌うロシアと中国、また、中東政治でサウジアラビアと競合関係にあるイランが、それぞれアサド政権への支援を強めた。さらには、レバノンのイスラーム主義組織・政党ヒズブッラー(ヒズボラ)が、アサド政権側で「内戦」に参戦した。

こうして、シリアでの「内戦」は国際的な代理戦争の様相を呈することになった。「内戦」にカギ括弧がつけられているのは、シリア国内で自己完結しない「国際化した国内紛争」という意味が込められている。

つまり、国際政治では欧米と露中、中東政治ではサウジアラビアとイラン、そして、国内政治では反体制諸派とアサド政権という三層構造の対立図式が完成したのである。

その結果、シリア「内戦」の解決はいっそう困難なものとなり、戦局は膠着状態へと陥った。その最たる象徴が、2013年8月末の首都ダマスカス郊外での化学兵器の使用事件に対する米国や英国の不干渉の決断であった。

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