現代新書

日本人が意外と知らない!?  「トヨタ」が最強であり続ける本当の理由

酒井 崇男 プロフィール

マネジメント能力

Q:もともとの人材からすると、トヨタだけが特に優秀な人が集まっているわけではありませんよね? 

酒井 もちろんそうだと思います。私のようなもともと地元の人間にとっては、ああ豊田市か、という感じで別に三河地方には違和感は全くありません。しかし、もともとトヨタは東京からするとずいぶんと辺鄙なところにあるので、第一希望で就職する人は昔は少なかったと聞きます。

特に年配の人の中には、「東京で育ってトヨタに就職するのは、都落ちのような気持ちになる、三河線に乗っていると泣けてくることがあった」と言っていた元社員の人もいました。三河線とは豊田市を走るローカルな鉄道のことです。

もちろん、豊田市は、いまでは日本一経済的に豊かな自治体になりましたので、東大の工学部の就職希望ではここ数年トヨタが一番だという話が聞こえてきます。いわば「寄らば大樹」ということで、学生諸君は現金なものです。トヨタの将来が心配になりますね。

実際、私が就職するときも、トヨタに行く人もNTTや日立に行く人も学生の資質としては大差はありませんでした。しかしここまで業績に違いが出る。その理由はマネジメントそのものに他なりません。

本書を読むと、その秘密の一端がわかるのではないでしょうか。トヨタが完璧だとは言いませんが、結果から言えば、日立やNTTのようにグローバル化に失敗して凋落してきた企業よりは素晴らしいレベルで優れている、ということです。

あるいはトヨタが良いというよりは、日本企業の場合はトヨタ系以外が論外、人災レベルで劣っていると言ってもよいかもしれませんね。

米国で始まっているトヨタ流経営の研究

外資企業でも最近は動きがあります。かつて流行したビジネススクール式の経営が組織を荒廃させ、ごく一部の階層を除く米国人を貧しくしてきたと言われ始めたので、トヨタ流の人材育成やタレントの活用方法が調査されているようです。

ハーバードビジネススクールでもトヨタのケースが積極的に取り上げられているということですね。もっとも、ハーバードの人達はほとんどまともに理解ができているというわけではなく、相変らず的が外れた議論を繰り返しているとも聞いています。

2月に長年のトヨタ研究で知られているミシガン大学のジェフリー・ライカー教授と話をしたときに、「トヨタは米国の会社やフォルクスワーゲンのように、MBA的、資本力に頼んだ無理矢理の機械化による成長ではなくて、「有機的な成長」をしてきた会社だ」と言っていました。 

彼は、米国企業が、トヨタからいかに学べるかを考えているようでした。ここでライカー教授の言う「有機的な成長」というのは古い米国式の「切った、貼った」の企業経営に対してよく用いられる用語です。

ライカー教授もこの有機的成長の意味を考えていたようですが、彼を含めてあまり合理的な説明をしている人はいません。本書では、トヨタ式のマネジメントのTQMの理論化もしたので、このあたりの意味を合理的に理解していただけるのではなでしょうか。

不思議なことに日本最大のグローバル企業のマネジメントは、日本の経営学科ではまともに研究もされず理解もされず、的の外れたことばかりが言われてきたので、日本人の間では、トヨタ系列以外の人にはトヨタ流経営は全くというほど知られていません。トヨタ系の社員も与えられた仕事をこなすのに精一杯になっているはずなので、もちろん、全体の仕組みを知ったり考えたりする余裕はないのかもしれません。

実は、前著(『タレントの時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』講談社現代新書)の読後の感想の中には、「自分が40年勤め上げた会社のことがはじめて理解できた」というものが複数ありました。企業規模が大きいと全体の構造がどうしてもわかりにくくなることはあると思います。

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酒井崇男(さかい たかお)
愛知県岡崎市生まれ。グローバル・ピープル・ソリューションズ代表取締役。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了。大手通信会社研究所勤務を経て独立、人事・組織・製品開発戦略のコンサルティングを行う。リーン開発・製品開発組織のタレント・マネジメントについて国内外で講演・指導を行っている。前著『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』(講談社現代新書)では、グローバル企業の人材戦略について詳細に解き明かし、大きな反響を呼んだ。