新説「グレート・ジャーニー」~ホモ・サピエンスはどうやって日本にたどり着いたのか?
『日本人はどこから来たのか?』著者インタビュー

「純血の日本民族」などいない

――そんな中、私たちの祖先は、日本列島に入ってきました。

日本人はどこから来たのか?』著者の海部陽介さん

対馬を通る「対馬ルート」、台湾からの「沖縄ルート」、シベリアからの「北海道ルート」を使って移住してきました。これ自体は目新しい説ではないのですが、最新データを使って裏づけています。

私が強調したいのは、そもそも日本人は大陸の様々な場所から移住してきたホモ・サピエンスの「混ざりもの」だということです。

現在、東アジアには民族的な対立がありますが、そもそも、祖先は「混ざり合って」いる。しかも日本では、その後しばらくすると、弥生人が大陸から渡来してきて、さらに重層的な「混ざり合い」が起きている。「純血の日本民族」がいるわけじゃないんです。

民族の優劣を強調した言説も少なくありませんが、人類学の研究者の立場で見ると不可解で仕方ありません。

――海部さんは、移住ルートの中で特に「沖縄ルート」に興味を持っているということですが。

はい。台湾と琉球列島は少なくとも過去10万年間、海で隔てられていますが、沖縄からは、約3万年前のホモ・サピエンスの遺跡が見つかっています。つまり、沖縄ルートで日本に入ってきたホモ・サピエンスたちは、台湾から沖縄まで、航海をしてきた可能性が高いんです。

彼らは目的地が見えない中で航海をしなければならなかったし、現在と同じルートで黒潮が流れていたならば、その速い潮も横断しなくてはならなかった。地図も天気予報もGPSもない中で、これは並大抵のことではありません。しかも、移住先で社会をつくったのだから、男女が混ざった、ある程度の人数も必要だったはずです。

私は彼らに思いをはせてしまいます。台湾の海岸から琉球列島は見えませんが、山の上からなら発見できたかもしれないとか、島を渡る鳥や蝶を見て、「向こうに陸地がある」と思ったのではないか、とかね(笑)。

――いま、こうした仮説を実証するための「実験」を準備されていると、うかがいました。「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」です。当時の技術で果たして本当に台湾から沖縄にたどり着くことができたのか、実際に試してみるというもの。今年7月、与那国島-西表島間を航海する予定です。

いまもクラウドファンディングなどで資金集めをしています。これまで研究ばかりしてきましたが、生まれて初めておカネを集めなきゃいけない状況に置かれ、会社で営業をやっている人の気持ちがわかりました(笑)。

実験が成功すれば、私たちはきっと、自分の祖先を、いまよりもずっと尊敬するようになると思います。数万年前、祖先たちが創造性とチャレンジ精神で誰もやったことのないことを成し遂げ、その結果、僕たちはいまここにいるんですから。

(取材・文/土屋敦) 

かいふ・ようすけ/'69年生まれ。人類学者。東京大学理学部卒、同大学大学院理学系研究科博士課程中退。'95年より国立科学博物館に勤務し、現在は人類史研究グループ長を務める。著書に『人類がたどってきた道』がある

『週刊現代』2016年3月26日・4月2日号より