作家・朝吹真理子が潜る”創作の海”
「イメージと言葉をつなぐ『チューブ』としての使命を全うしたい」

朝吹真理子×向田麻衣【第1回】
朝吹真理子さんと向田麻衣さん
Lalitpur(ラリトプール)の向田麻衣さんが「美しい瞬間をつくる人」を訪ねる本連載、第4回のゲストは作家の朝吹真理子さんです。2009年に『流跡』でデビューしドゥゴマ文学賞を最年少受賞。11年に『きとこわ』で芥川賞を受賞、現在は初の長編に取り組んでいるという朝吹真理子さん。書くこととどう向き合っているのか? おぞましいけれど美しい”瞬間の光”をとらえて潜り込む、”創作の海”をめぐるお話(構成・徳瑠里香/写真・三浦咲恵)。

世界の“美しい瞬間”に触れるということ

向田: 真理子さんとは昨年の秋に出会って以来、仲良くさせていただいていますが、今日はよろしくお願いします。

朝吹: 素敵な機会をありがとうございます。よろしくお願いします。麻衣さんと初めて会ったとき、初めて会った気がしなかったね。2人でいても極めて自然で。うれしいなあ。

向田: もともと私は、真理子さんの作品が好きで。『きとこわ』を手にとったきっかけは、ある時、友人から「僕の親戚が芥川賞をとったから読んでね」というメッセージをもらったことでした。読んでみたらすごく素敵で、あまりにも気に入ってしまったので、何人かの友人に薦めて、実はここにある本は4冊目なの。NYに行く時に持って行く本は限られていたのだけれど、この2冊はどうしても本棚に置いておきたくて。

大好きな小説家が、2015年10月に開いたLalitpurのPop up Shopでのトークイベントにひょっこり現れたときは、驚いたしうれしかった。あの日からのご縁をとてもうれしく思います。

朝吹: 恥ずかしいなあ。ありがとうございます。LalitpurのPop up Shopには偶然一聴衆としてお邪魔していて、よもや麻衣さんが私の作品を読んでくださっているということは全く知らず驚きました。その時に麻衣さんの著書『“美しい瞬間”を生きる』を手にとって読んで・・・。本当に素敵な本だと思います。

向田: ありがとうございます。本には、私がネパールでの活動や日常のなかで感じる“美しい瞬間”を込めました。

朝吹: ふだん人間は、昨日今日明日と、時間が地続きにあるようにふるまっているけれど、実際の人間の感覚というのは、リニアな感覚よりも、瞬間だけが並列的に存在していて、それを抱え持っているような気がします。

美しい瞬間って、淡雪のように、降った瞬間からかたちがくずれてしまうようなものだと思う。自分の心のなかに入ってきた一瞬の淡雪を生涯大事に抱え持ったり、自分の生きることの寄る辺にしたり、そういう支えになるような体験。美しさって、哀しみや痛みにも近いのだけれど、そういう瞬間がたくさん梱包されて、心の震えのようなものがこの1冊に詰まっていた。

ネパールでの漏電で容赦なく自分の時間に隙間が生まれることの美しさが書かれていて、一度も行ったことがないのにその真っ暗な夜の情景が浮かびました。私がとくに偏愛しているのは「好きな人の鎖骨」というエッセイ。一番近い「あなた」に全身全霊をささげることができるから、雇用関係の人やソープを使う「あなた」を、思うことができる。麻衣さんはいろいろな「あなた」にそっと愛情を届けているのだなあと。

向田: 真理子さんありがとう。うん。Lalitpurの前身であるCoffret Projectでも、お化粧で一人ひとりの顔に触れていている。たった一人、「あなたのため」の行為を重ねていた。私は、誰か一人と向き合うことや、誰か一人の人を思ってものづくりをすることでしか、表現をすることしかできないなにかがあると思う。それはある種の弱さとかあきらめでもあるのだけれど、目の前のたった一人の人を愛する。それができたら、それ以上のことはないのかもしれない。

朝吹: それはすごく難しいことだよね。

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