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日本ペイント元役員が「情報ドロボー」で逮捕〜技術者の転職にひそむ罠
〔PHOTO〕gettyimages

人一倍、会社を愛した技術者が社内の権力闘争に敗れ、会社を追われた。そしてかけられた情報漏洩の容疑。ちょっとしたボタンのかけ違いが破滅へと誘う。サラリーマン人生の転落の軌跡を追う。

仕事はできるが、敵も多い

日本最大の塗料メーカー「日本ペイント」(大阪市北区)で、かつて「社長候補」と目された橘佳樹氏(62歳)。

社内の権力闘争で敗れ、同社を去った橘氏は、'13年に中堅の塗料メーカー「菊水化学工業」に役員として迎えられた。しかし、その末路は「情報ドロボー」の烙印を押される悲しいものとなった。

「昨年7月、日本ペイントホールディングス(HD)が橘氏を刑事告訴しました。橘氏が日本ペイント社製塗料の製造方法を盗み出し、菊水化学で同じような製品を生産しているという内容です。

これを受けて愛知県警は2月16日、日本ペイント元執行役員で菊水化学常務取締役の橘氏が企業秘密を持ち出したとして、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)の疑いで逮捕しました」(中部地方担当の全国紙社会部記者)

橘氏は神戸大学大学院工業化学研究科修了後、'78年に日本ペイントに入社。建築用塗料の技術者として頭角を現す。橘氏を知る日本ペイントの元社員がこう話す。

「研究者としての能力に加えて、商品開発もでき、営業にも手を広げたオールラウンダーでした。'01年から'05年まで社長を務めた藤嶋輝義さんに目をかけられて出世し、'03年には40代で最年少役員(当時)に取り立てられた。いずれは社長に—社内の多くの人がそう思っていましたし、順当であれば、トップに立っていたはずの人でした」

実際、社内でも彼の能力は高く評価されていたという。橘氏と親しい日本ペイント元幹部が、彼の人となりを話す。

「入社した頃から態度がでかくて、横柄なヤツでした。先輩を先輩と思わないようなところもあった。ただ、仕事は真面目にやるし、後輩たちの面倒見もいい。人間的にも愛嬌があり、可愛げがあった。私は彼ほど会社のためを思っていた人材はいないと思いますよ。

一級の研究者であるだけでなく、親分肌の人間でもありました。普通、研究者は仲間を作らず一人で研究に没頭する人が多い中、彼は部下たちをよく飲みに連れ出していました。外見もサングラスをかけて外車に乗るなど、研究者然とはしていない。

彼を慕っている後輩はたくさんいるはずです。だからこそ、なぜ彼が会社を追われなければいけなかったのか。日本ペイントが大好きな人間でしたから、会社の不利益になることをするタイプではないのですが……」