エンタメ50年の歴史上ずっと変わらない「おもしろさ」の本質とは?
──倉本美津留とタナカカツキの往復書簡Ⅲ


メディア・コンテンツ業界のこれまでとこれからをテーマに展開している倉本美津留さんとタナカカツキさんの往復書簡。昭和から平成、テレビからインターネット、時代やメディアの垣根を超えて、おもしろいコンテンツを生み出し続ける2人が、これから見据える世界とは? 2人が今夢中になっているメディアと未来予測についてのやりとりをお届けする。

〈倉本美津留さんとタナカカツキさんの往復書簡Ⅰ〉
「コップのフチ子は単なるガチャガチャじゃない、変なメディアなんですよ」

取扱い説明書すらメディアになる

倉本さんへ

たしかにテレビとネットの境はなくなっていますね。僕が最近一番見ているのはYouTubeですね。歌がうまい人だけをひたすら聴いています。昔はそれが無理だった。テレビに出るようなプロになるためには、歌のうまさだけじゃなくて、容姿やトークも求められる。事務所に所属しなければならなかったりもしてハードルは高いけど、YouTubeは誰でも勝手に出られる。「歌ウマ」バトルが繰り広げられていて、おもしろいんです。

それにYouTubeは時空も超えますから。この間、素人の女子高生が部屋で歌を歌っているだけの動画があがってて、自分でギターも弾いてただ歌っているんです。オリジナルではなくて、日本のポップス、名曲を歌ってる。ええ声なんです。関連動画を探っていったら、彼女は何年間もそれを続けていたんですよね。彼女は大学生になり、やがて成人していく。歌もギターもうまなってて。30分程で、その女の子の18歳~21歳の4年分の成長分を一気に見られたんですよ。ライブもやってたみたいで行きたかった…!これは今の時代にしかできへんことだと思いますわ。

ネットやスマホによってなんでもメディアになるなあと思ったものの一つが「取扱説明書」。僕、あれ読むのが好きなんですよ。今はネットで自分が買っていない製品の取扱説明書でもPDFがダウンロードできるので、趣味で読んでいます。高額な電子楽器とか最新の洗濯機とか。説明書なんて普通は読みたくないでしょ?でも、買った人にわかってもらおうとする意欲と工夫、アイデアがあるんです。それが後半めちゃくちゃおもしろくなるんですよ。本当におもろいコントと一緒で、ある段階から味がわかるようになるんです。取扱説明書も僕にとってはメディアですね(笑)。

時空を超えて楽しめる時代がやってきた

カツキへ

「弾き語り」の映像は、上手な使い方、使われ方をしたよね。人類はこれから「3.5次元」を生きるようになるんじゃないかと思ってる。たとえばカツキが言うようにYouTubeは時空を超えている。古いものも新しいものも関係なく見れるやん。ボクが子どものときに見たものを、今同じ感覚でおもしろがる子どもたちが出てくるんちゃうかな。小学生がYouTubeを見ているということは、昭和のバカオモシロ感覚を知る若者が出てくるんじゃないかと、期待してる。

50年くらいの歴史のなかで、年代関係なく、おもしろいものだけが残っていく気がしていて。古いものも新しいものもごちゃまぜで、このジャンルの何が一番おもしろいかをランキングにしたりして。「今週のビルボードトップ10」のようなテンションで、「今世紀のビルボードトップ10」が見られるかもしれない。

たとえばお笑い番組で生きている漫才師と故人が時空を超えて競い合っている番組とかあったらおもろいなと。ジャルジャルとやすきよが同じ舞台に立って漫才してるとか。ちょっと気の利いたCGを使ったらできるんちゃう。

情報はあふれているから、整理の仕方についてアイデアを出すとおもしろいことになりそう。誰がキュレーションをして楽しく見せていくか。やり方もたくさんある。最近出した『倉本美津留の超国語辞典』(朝日出版社)は日本語を自分の好きなようにカテゴライズして並べ替えてるだけやねん。それだけでテンションが上がる。そういうことが過去の番組ラインナップでできたらおもしろいだろうなと思う。タナカカツキがおもろいと思った映像10選とか作ってや。

メディアが身体性を伴うようになる

あと、これだけスマホでいろんなことが可能になると、やっぱりライブとか身体感覚を伴うものの需要は高まってくるよね。ボクはずっと笑いはスポーツに拮抗しうるのかというようなことを考えていて。修練したプロたちが競い合う。サッカーとかその姿を見て全世界が盛り上がっているようなことをコントで実現できないか、と。

スポーツを超えるコントを作りたい。そんなことを特に意識しているのがジャルジャルとやってる「超コントLIVE」。その場の偶然性でコントタイトルを決めて、その10秒後にコントを始めるというライブ。やっているほうも見ているほうもどうなるかわからないドキドキ感がある。

ボクは照明と音楽を担当していて、臨機応変に雰囲気を変えていくんだけど、そうするとコントの進む方向もどんどん変わっていく。監督と選手の関係のような。まさにスポーツやね。これはお笑い筋力が強いジャルジャルだからこそ実現できる神業やねんけど。完成されたものではなく、その場で生まれていくエンタメのかたちもどんどん増えていくんじゃないかな。

僕らの時代は、マンガ雑誌や深夜番組、友人がメディアだった

倉本さんへ

メディアといえば、僕らの時代、僕が小学生だった頃はマンガ雑誌がメディアでした。マンガ雑誌に、少年の好きな情報がいっぱい詰まっていたんですよ。マンガはもちろん、広告も切手の通信販売とかあって。最初のカラーページはスーパーカーとか特集があって、みんな夢中になった。

当時もテレビはいろんな人に向いていたけれど、少年マンガは僕たち少年のためにあって、向かい合った雑誌だった。はがき応募のコーナーやペンパル募集欄もあって、コミュニケーションもとっていたんです。ネットによってメディアが双方向になったとか、コミュニティだと言われていますが、マンガ雑誌にはその要素があったと思いますよ。完全にあの頃の「ぼくらのメディア」だった。

あの感じが懐かしくて、楽しかったなあとも思う。いまもそういうものを求めたいんですが、情報と選択肢が多すぎて、選ぶ能力が求められますよね。僕みたいなマニアックな人間は選べるほうがいいんですが。

メディア、情報の媒介という意味では友人の存在も大きかった。物知りのクラスの友人とかセンパイとか。当時の深夜テレビ番組も、つまり倉本さんを媒介として新しい世界を教わったんですね。そのことを考えれば、個人が発信できる時代、僕も媒介者として、倉本さんに1人メディアと言ってもらえたことですし、これまで通りくだらんことをやり続けてゆこうと思います(笑)。人生は昔と比べて長くなりましたから、いろんな仕事も趣味も何種類もたくさんできるようになりましたしね。

倉本美津留(くらもと・みつる) /放送作家
「ダウンタウンDX」「浦沢直樹の漫勉」「M-1グランプリ」Eテレの子ども番組「シャキーン!」などを手掛ける。これまでの仕事に「ダウンタウンのごっつええ感じ」「伊東家の食卓」「たけしの万物創世記」ほか。近著に『倉本美津留の超国語辞典』『現代版 判じ絵本 ピースフル』(本秀康氏との共著)。
タナカカツキ /マンガ家
1966年大阪うまれ。1985年マンガ家デビュー。著書には『オッス!トン子ちゃん』、天久聖一との共著「バカドリル」などがある。週刊モーニングで『マンガ サ道』月イチ連載中 www.kaerucafe.com/

(取材:徳瑠里香、佐藤慶一/文:徳瑠里香/写真:岡村隆広)