【ルポ】インド「代理出産」~子宮の病、不妊症…日本人女性はなぜインドに渡ったのか
インド人の代理母たち © Miho Hirai

文・写真/平井美帆(ジャーナリスト)

インド、タイ、カンボジア、ネパール――。過去十数年の間に、「代理出産」をめぐる世界情勢は、地殻変動を起こした。一部の州で代理出産が認められているアメリカではなく、3分の1ほどの価格で依頼できるアジア諸国に舞台が広がったのである。

とりわけ世界第2位の人口を持つインドは、クリニックや代理母の数、低価格に加え、英語が通じる国ということもあり、いわゆる「先進国」から依頼者が押し寄せた。日本もその例外ではない。

ところが、子どもの親権や出国トラブルなどが相次ぎ、インド政府は徐々に依頼者の取り締まりを強化。ついに2015年10月末、外国人向けの代理出産を禁じることを決めた。

一方、日本ではそう遠くない将来、代理出産に影響をおよぼす動きがある。自民党のプロジェクトチームが法案化を進めている「特定生殖補助医療法案」が成立すれば、ごく一部の例外を除いて、事実上、卵子提供と代理出産は禁じられる。

ART(Assisted Reproductive Technology, 生殖補助医療技術)と、どう向き合うのか。およそ13年にわたったインド代理出産取材をふり返りながら、現状を見つめてみたい。

インドへ通う日本人 

「半年前にインドに行ってきましたが、このときの挑戦では残念ながら妊娠にはいたりませんでした。それから、気持ちを立ち直らせるのにずいぶん時間がかかってしまいました」

30代後半の日本人女性、麗子さん(仮名)から久しぶりに連絡がきたのは、2013年7月末のことだ。来月には再びインドに渡る、という知らせだった。彼女は20代で結婚したが、病から子宮を失い、インドでの代理出産に挑んでいた。

そもそも、有償の代理出産は、1980年代にアメリカで広がった方法である。代理母が産んだ子の引き渡しを拒んだ人工授精型の代理出産、「ベビーM」裁判(1988年判決)などを経て、アメリカの一部の州では代理出産は認められている。かつては、夫の精子を直接、代理母の子宮内に注入するAIH(人工授精)が用いられていた。だが、今では、生殖補助医療技術の進歩に伴い、IVF(体外受精)の技術が取り入れられている。

体外受精には夫の精子、妻の卵子を用いるが、加齢などの理由で妻の卵子では成功しない場合、第三者の女性(卵子ドナー)の卵子を用いる。卵子の提供を受けると、生まれてくる子は、依頼主とも、代理母とも、血のつながりはない。

麗子さんはあくまで、自分の卵子を使った体外受精型代理出産を望んでいた。

情報を収集した末、外国人向けの代理出産を数多く手がけるナイナ・パテル医師にたどり着いた彼女は、インド北西部のグジャラート州にあるクリニックへ向かった。

インドらしいのどかな田舎町「アナンド」で、麗子さんは多くの“同志”と出会う。

「初めてのインドでは、5人の日本人と会いましたが、成功したのは1人だけ。2回目の挑戦の方でした。もう1人の方は双子の妊娠が確認されましたが、5週目で流産。私を含む残りの3人はダメでした。代理出産の難しさを実感しています」

この頃、すでにインド政府は依頼主側に「医療ビザ」の取得を求めるなど、代理出産の取り締まりを強めていた。次の挑戦が最後になるかもしれないと、ふだんポジティブな麗子さんは弱気な一面を見せた。医療ビザ取得に必要な書類を日本政府が出してくれないため、しかたなく観光ビザで行く予定だという。

「子宮のない私たちに、何の手助けもしてくれない日本政府に憤りを感じます。先月は日本人がアナンドの警察に連行されたそうです」

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