「僕は筒井康隆さんと半村良さんから遺伝子をもらった」
〜作家・夢枕獏の「わが人生最高の10冊」

夢枕獏さん原作の映画『神々の山嶺』は3月12日ロードショー

しびれたSF

小学校の高学年の頃から、将来なりたい職業の1つに「小説家」が入っていました。冒険的な要素が強くて不思議な話が好きで、昔話やギリシャ神話などを好んで読んでいたんですが、一番好きだったのは、「西遊記」ですね。

僕が書いている小説は、どれも基本的に「どこかに冒険して行って、何かを手に入れて、帰ってくる」という物語。今度、映画化された『神々の山嶺』も、ある謎を追ってエベレストに登り、帰ってくる話。まさに「西遊記」の構造なんです。

とは言いつつ、今回の10冊には「西遊記」は挙げていない(笑)。1位に挙げた『妖星伝』が発表されたのは、僕がデビューする直前、24歳の時。

当時、僕はSFを読み漁っていたんですが、どう見ても時代もの、伝奇ものという雰囲気のこの作品に圧倒された。江戸時代を舞台にした作品であるにもかかわらず完全なSF作品なんです。第3巻の最後の一文は、〈それは、意志を持った時間、であった〉。この“SF度”にしびれたんだよね。

人情噺の書き手として、名作『雨やどり』で直木賞を獲った後で、半村さんはSFを書いた。その根っこには、「奇想で読者の度肝を抜きたい」という作家としての思いがあったと思います。とても共感しますね。

2位の『失われた世界』は、僕が小学生の頃、生まれて初めて自分でお金を出して買った本です。いろいろな版が出ていますが、その時僕が買ったものは分厚いハードカバーで『恐竜の足音』というタイトルでした。

その後、シャーロック・ホームズと出会い、この二つはコナン・ドイルという同じ作者が書いたのだと知ったんですが、驚きましたね。しかも、彼は南米に行ったことなどまったくない。新聞記事だけを元にして『失われた世界』を書いたというんだから、すごいでしょ。

絶壁に囲まれたテーブルマウンテンに、古代の恐竜が生き残っているという、この発想が素晴らしい。恐竜と秘境と冒険。そこから、命からがら生きて帰ってくる。

ラストがまたいいんだな。恐竜がいたなんて誰も信じないけれど、チャレンジャー教授が籠をパッと開けると、プテラノドンが飛び出してくる。これが大西洋上を飛んでブラジルの方角に飛んでいったのが目撃されたという記事が新聞に載るわけです。

僕は平賀源内が解読した地図を元に、南の島から江戸に恐竜を連れ帰ろうとするという『大江戸恐龍伝』を書いているんですが、そこに「千夜練三郎」という男を登場させている。もちろん、「チャレンジャー」教授へのオマージュです。