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佐藤優直伝 社会人のための「教養」講座
【第1回】「金正恩の思考回路」をどう読み解くか?

この男は本当に狂っているのか? 〔PHOTO〕gettyimages

なぜ「水爆」だったのか

今年1月6日、北朝鮮が「水爆実験に成功した」と発表しました。第1回は、この報道の読み解き方から始めましょう。

こういう時、まず考えないといけないのは「先例があるかどうか」です。皆さん、「地下水爆実験」なんて聞いたことがありませんよね。水爆は普通の核爆弾より爆発の規模がはるかに大きい。実際に爆発させれば、山が吹き飛んでしまうような事態になりますから、「地下水爆実験」というのはあり得ないんです。

それに、仮に北朝鮮が水爆実験を成功させたとして、「日本に対する直接的な危機が増した」と本当に言えるでしょうか。

水爆は小型化が難しい兵器です。アメリカやロシアは小型化に成功し、ミサイルの弾頭に積めるサイズの水爆を持っていますが、非常に高い技術がいる。原爆のような核分裂兵器と、水爆のような核融合兵器には、相当な技術的ギャップがありますが、北朝鮮にそれを埋める力はありません。

また、北朝鮮には弾道ミサイルや爆撃機など、重い水爆を運ぶ手段もない。ですから、現時点で本当に北朝鮮が水爆を持っていたとしても、怖がる必要はないでしょう。

むしろ今、国際社会が脅威と考えているのは、北朝鮮が原爆を小型化すること。うがった見方をすると、北が今回わざわざ「これは水爆実験だ」と発表したのは、「核の小型化の実験をしているわけではありません」という対外的メッセージかもしれないのです。

メッセージの宛先ははっきりしていて、アメリカですね。つまり、このニュースひとつから「われわれは核兵器を小型化して、アメリカを攻撃するつもりはない」という金正恩のメッセージが読み取れるわけです。

一方で、この水爆実験を受け、韓国の与党セヌリ党幹部は「北に対抗してわれわれも核兵器を持つべきだ」と言いました。

一般論として、「能力のある国が意思を持つと、恐いことになる」というのが、核開発に関する国際常識です。そして、韓国は核武装の能力を十分持っています。北朝鮮の「自称・水爆実験」において警戒すべきは、実は韓国かもしれないのです。

このように、世の中で起きていることの裏側を読むために不可欠なのが、インテリジェンス、情報です。

インテリジェンスという言葉は、ラテン語で「インテ」すなわち「〜の間に」という接頭辞と、「レゲーレ」つまり「組み立てる」が結びついている。「レゴ」は「レゲーレ」の活用形で、あのプラスチックの組み立ておもちゃ「レゴ」の名前の由来にもなっていますね。

例えば、ある建物の壁を撤去するとき、建築の専門家は全体の強度を計算して、その壁を取っても建物が崩れないかどうか判断できます。同じように、インテリジェンスを備えた人には、物事の裏側にある、目に見えない構造が把握できる。

もうひとつ、いい練習問題を挙げましょう。去年12月、興味深い事件がありました。警視庁公安部が、陸上自衛隊の元将官ら6人を、ロシア大使館の駐在武官に情報を漏らした容疑で書類送検したのです。具体的には、陸上自衛隊の内部教本を、ロシア人元武官に渡したという容疑でした。

インテリジェンスの世界で情報をとる際の常套手段は、リタイアした人や一線を退いた人、例えば政治家なら政争に敗れて野党でくすぶっている首相経験者などにアプローチすることです。彼らには、もといた組織がどういう論理で動くか、内部で何が起きているかが分かりますからね。皆さんも、ライバル会社のことを知りたいのであれば、そのライバル会社を辞めてしばらく経った人に話を聞くのがいいでしょう。

この事件も「ロシア大使館の駐在武官」と「自衛隊の元将官」の間で起こりました。彼らはお互いに、情報をやりとりしていたわけです。インテリジェンスの世界はギブ・アンド・テイクですから、自衛隊の教本をロシア人に渡した元将官も、何かしらの情報を相手から取っていたはずです。

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