「過疎の町のパン屋」が実践する、利潤を追わない経営哲学
ポスト資本主義、人口減少社会の最前線から
200人近い聴衆を前に講演する「タルマーリー」店主の渡邉格氏

MBA講義にきたのは意外な人物

2016年1月13日(水)、企業経営の戦略や方法論を学ぶMBA(経営学修士)の講座に、意外な人物が特別講師として招かれた。その人物とは、日本一人口の少ない県からやってきた「田舎のパン屋」の主である。店の名前は「タルマーリー」、鳥取県東部の智頭町で店を営む。人口7,500人ほど(2016年1月1日時点)の過疎の町に、多いときには一日400人もの客を呼び込む人気店だ。

 「タルマーリー」の名を世に知らしめるきっかけとなったのが、オーナーにしてパン職人の渡邉格(わたなべ・いたる)氏の手による一冊の書籍、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社)だ。2013年9月に刊行した本書は今も売れ続け、2016年1月時点で11刷31,500部と版を重ねる。テレビや新聞、雑誌などのメディアからも注目も高い。

タルマーリーについては、現代ビジネスでもこれまで何度か紹介してきた。なかでも昨年10月末に掲載した記事は、SNSでのシェア1万以上、ページビューが120万を超える広がりを見せた。著書が韓国語に翻訳され、韓国では日本を上回る熱狂で迎えられていることを報じた記事だ。韓国の人口は5,000万人弱、日本の4割ほどであるのに対し、部数は日本を上回り35,000部に達している。

この日タルマーリーが招かれたのは、立教大学大学院のビジネスデザイン研究科が運営する社会人向けMBAコースの一コマ、「起業戦略(スタートアップ・ストラテジー)」という授業の特別公開講座だ。その特別講師として、名立たるベンチャー企業の経営者でもなく、田舎でパン屋を営むタルマーリーに白羽の矢が立った。その意図を、この授業を受け持つ高柳寛樹氏は次のように語る。

「インターネットの登場以降、起業のハードルは大きく下がりました。ITを活用した多くのスタートアップ起業が数多く誕生し、上場や急激な成長を果たした経営者は称賛を集めています。そのこと自体は新しい時代の到来と前向きに受け止めていますが、その反面で、“成功者”を模倣するだけの“哲学なき起業”が後を絶たない印象を拭えません。こうした現状に疑問を投げかける意味で、“起業の目的は何なのか”を受講者に問う授業を展開しています。

著書を拝読して、タルマーリーさんこそ、この授業の趣旨にピッタリだと感じました。事業を通じて目指されていること、著書で展開されていたマルクスを援用した“利潤”についての考え方など、他の起業家にはないユニークな経営哲学をぜひお聞きしたいと思っています」