賢者の知恵
2016年03月13日(日) 原克

真のイノベーションは「トリセツ無視」から生まれる
~音楽界に訪れた「歴史的瞬間」

ある日、レコードプレーヤーは楽器になった

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〔PHOTO〕iStock


文/原克(早稲田大学教授)

職場からの帰りに、新製品を買って帰る。

ずっと欲しかったものだ。期待に胸をふくらませながらテーブルに向かうと、慎重に梱包を解き、そっと箱を開ける。その瞬間、新品ならではの香りがプーンと鼻先を包む。

すぐにでもスイッチを入れたいが、ようやく手に入れた大切なものだ、壊してはいけない。なにせコイツのために、二ヶ月間も残業をふやしてきたのだもの。丁寧に使わねば。

そこで、はやる心を抑え、箱の中から、添付されている取扱説明書を取りだし、ゆっくりと読みはじめる。分厚い。時間が掛かりそうだ。オッと、コーヒーを淹れてこよう。

きまじめに働き、その労働の対価として新製品を買う。だからこそ、その製品を大切にして丁寧に扱う。そのために、まずは取扱説明書を手に取る。お行儀の良いユーザー。今日、どこにでもいる平均的な消費者の原像である。

21世紀初頭、消費社会におけるユーザーの現実だ――。

***

この世には二種類のミュージシャンがいる。電子産業界のCMに採用されるミュージシャンと、そうでないミュージシャンだ。

たとえば、エリック・クラプトンや坂本龍一は前者。しばしばCMに登場する。それにひきかえ、ジミ・ヘンドリックスやパブリック・エネミーは後者だ。かつて、CMに顔をだしたことはほとんどない。

とはいっても、人気があるか、好感度が高いかどうかという問題ではない。そのミュージシャンの本質が、電子産業界の技術的本質に、沿うか沿わないか。この違いだけが、分水嶺なのだ。

最初に断っておく。CMに採用されるから良いとか、楽曲の質が優れているとかいうのではない。と同時に、その逆に、採用されない方が高踏的で優れているとか、音楽的に上質だとかいうのでも、これまたない。作品の質については、前者であれ後者であれ、それぞれのかたちで、良いものは良く、そうでないものはそうでない。

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