読書人の雑誌『本』
深夜につい初恋の人を検索してしまう「女の子のきもち」
[Photo:iStock]

文/朝倉かすみ(作家)

徹夜明けにたどる「初恋の記憶」

30代の女性が歳下の男性を追いかける短編でデビューした。数年後、40代の男女が同級生を待つ短編集を出した。そして、このたび、50代の主人公5人、40代の主人公1人の短編集を刊行した。『たそがれどきに見つけたもの』という。

タイトルは陸奥A子先生の「たそがれ時に見つけたの」のもじりというか本歌取りというか、そういうのである。「たそがれ時に見つけたの」は1974年に発表された少女漫画で、いわゆる「おとめちっくラブコメ」の代表作のひとつ。絶大な人気を博した。

たそがれ時、車に轢かれそうになったおばあさんを助けた男の子に恋をした松実。でも逆光だったので彼の顔は分からない。そんな折、本田くんからラブレターをもらう。松実の親友・セイコと本田くんの親友・亀淵くんをまじえグループデートを重ねていくが……という内容で、拙著の表題作の人物配置は、これを下敷きにしている。わたしの思い出も下敷きにしている。

わたしは高校生のときに好きだった男の子が長らく忘れられなかった。ほかのだれかとお付き合いしていても、彼は、「いちばん好きなひと」でありつづけた。パソコンを手に入れた2000年からは、定期的に検索し、消息を摑もうとした。

いまでも、たまに検索してみることがある。徹夜明けが多い。原稿を送信し、お疲れさまのビールを飲みつつ、初恋の記憶をたどるのである。

わたしが彼について知っていることはとても少ない。名前、誕生日、血液型、出身校、それくらいだ。その全部を検索窓に打ち込み、「一致する情報は見つかりませんでした」という文字を、ひととき、ぼんやりながめる。

一生、会えないんだな、との言葉が胸に浮かぶ。卒業式に見かけたすがたが最後だった、と思い、ほんとうに最後だったんだ、と思い、ほんとうに、ほんとうに、と繰り返し、ちょっと涙ぐんだりする。