賢者の知恵
2016年03月02日(水) 渡辺 将人

サンダース旋風がヒラリーに与える「党内外圧」

スーパーチューズデーの焦点【民主党編】

upperline
民主党の大統領候補を争うヒラリーとサンダース。スーパーチューズデーの見どころは?〔photo〕gettyimages

 

渡辺将人(北海道大学)

サンダース旋風の「生みの親」

スーパーチューズデーでヒラリーがリードを広げた場合、サンダース旋風なるものは陳腐化するのか。選挙が勝敗だけを決めるものであるならばそうだろう。

しかし、以前の論考でも指摘したように、アメリカでは政党の公認候補を政党幹部で決めず、予備選で有権者が決めるというオープンな制度を採用している。勝敗だけが目的ではなく、長期間のキャンペーンを通して、候補者や支持者が党内とメディアで議論を喚起し、党の方向性を形成していく。ときには政党支持者の入れ替えという「政党再編成」にまでつながる。

前々回の論考「『サンダース旋風』で深刻化する民主党内の亀裂」で紹介したキーポイントのうち、マサチューセッツ州選出のエリザベス・ウォーレン上院議員の存在に絞って「旋風」の文脈を考えてみたい。

* * *

約1年前にアイオワ州の地元紙「デモインレジスター」が両党有権者を対象に実施した世論調査では、民主党はヒラリーが独走状態だった。支持率はヒラリーが56%で、サンダースはわずか5%。16%で2位につけていたのはサンダースではなくウォーレン連邦上院議員だった。

エリザベス・ウォーレン連邦上院議員〔photo〕gettyimages

「サンダース旋風はウォーレンなしには生まれなかった」というのが民主党内の共通理解だ。

ウォーレンの「反ウォール街」的な立場に共鳴するリベラル派有権者は、ウォーレンが出馬しないことが分かると、行き場のないエネルギーをサンダース支援運動に転化させた。ウォーレンが出ていればサンダースは泡沫のままだし、サンダース・サポーターかなりの部分はウォーレンの支持層だ。

破産法の専門家としてハーバード大学ロースクール教授を務めていたウォーレンは、大学教授出身なのに「学者的ではない、活動家的な政治家」として認知されている。債務者の側に立つ消費者保護運動で金融機関と対峙してきた。

ウォーレンが強いのは「物語」を持っていることだ。アメリカで指導者になろうとする人には能力以上に、起伏のある「物語」が欠かせない。

労働者の家庭に生まれたウォーレンは、自身曰く「それしか得意なことがなかった」と自嘲するほど高校時代はディベートで活躍し、その奨学金で大学に入学。堅物な秀才型ではなく情熱的な性格でもある。恋に落ちた男性との結婚を優先し(当時19歳)、せっかくの奨学金を投げ出して中退。後に入り直した別の大学を卒業した。22歳で出産し、離婚後は再婚までの間シングルマザーでもあった。

オバマ大統領に近いある民主党戦略家は筆者にこう解説する。

「サンダースは知識人的進歩派(an intellectual progressive)だが、ウォーレンは経験的進歩派(an experiential progressive)だ。破産した人々の声にずっと耳を傾けてきた。医療、破産、離婚という3つが害悪になっていること、銀行のシステムが中間層を破壊したことを見てきた。

サンダースは知識人だ。ウォーレンは格差を生きてきた。経験してきた。それは違う意味での正統性を醸し出す」

次ページ サンダース支持者の真の狙い
1 2 3 4 次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
関連記事


underline
アクセスランキング
1時間
24時間
トレンドウォッチ