岩盤規制に完敗の安倍政権
~医薬品ネット販売「全面解禁」は看板倒れに

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2月10日の日本経済新聞に気になる見出しがあった。「電子処方箋4月解禁 厚労省、薬局の事務負担軽く」。厚労省は、今年4月から、医師が紙の処方箋を患者に渡さずに処方薬のデータを地域の専用サーバーに送り、そのデータを薬局が呼び出して患者に薬を渡すという仕組みを認めるというのだ。

これを認めていない先進国は日本くらいだ。これまで認めていなかったことのほうが驚きだから、一歩前進で良かったと思ってしまう。

しかし、よく考えると、何故今まで認められなかったのだろう。その鍵が、この記事の末尾にほんの数行あった。「厚労省は……十分な議論のないまま処方薬(のネット販売)を法律で禁止した。……『処方箋があればネットでの販売を認めるべきだ』との声が民間企業からは上がっている」というものだ。

実は、この話は、'14年の本コラム(8月9日号)ですでに取り上げた。それから1年半経っても、薬局業界と厚労族議員の利権の牙城は健在だ。

どういうことか説明しよう。

そもそも、「岩盤規制にドリルで穴を開ける」と大見得を切った安倍晋三首相が掲げた成長戦略唯一の目玉が「医薬品ネット販売全面解禁」だった。しかし、当時も指摘したとおり、「全面解禁」は看板だけ。解禁されたのは、いわゆる「一般用医薬品」だけで、「処方薬(医療用医薬品)」は禁止のままだった。処方薬の市場は6兆円超、一般用医薬品の10倍近い。

しかも、価格競争が激しい一般薬と違い、処方薬は業界にとってドル箱だ。ネット通販業者にこの美味しい世界を荒らされてはたまらないので、医薬品全体でみれば1割に過ぎない一般用医薬品の自由化だけに押さえ込んだのである。

当時の議論では、ネット通販禁止の理由として、薬局側は、「対面でないと患者の顔色が見分けられない」とか、「鼻水が白色か黄緑色かが見分けにくい」などという珍論を強力に展開した。その結果、一般用医薬品の一部(約1%)に要指導医薬品(劇薬等とも言われるが、一部のロキソニン系の貼り薬などなじみのものが多い)という分類を作り、これをネット販売の対象から外した。

これは、一般用医薬品でさえ対面販売すべきものがあるのだから、まして処方薬は対面販売して当然だという論理を作りたかったからである。

だが実際は、処方薬の場合は医師が処方しているのだから、対面販売の必要性は医師が関与していない一般の医薬品の販売よりも低いはずだ。マイナンバーカードを使えばネットでの本人確認も容易であり、医薬品ネット販売解禁の条件は整ったと言える。

病院に来る患者だから、体調が悪いとか体が不自由だとかいうのが普通だ。また夫婦共働きで勤務の合間に薬を取りに行くのは大変だという人も多い。処方薬のネット販売が解禁されればどんなに喜ばれるだろう。

しかし、安倍総理自慢の「ドリル」はお蔵入りし、この問題は安倍自民党ではタブーだ。今や、'16年度予算成立前から「補正予算が必要だ」と、さらなるバラマキを求める声だけが響く。一方の野党は、選挙のための野合だけ。国民のための政策実現の展望は開けないままだ。

『週刊現代』2016年3月12日号より