賢者の知恵
2016年03月07日(月) 牧野智和

日本の犯罪報道、ここがヘン!
〜だから、治安がいいのに「犯罪不安」が止まらない

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〔PHOTO〕gettyimages


文/牧野智和(大妻女子大学専任講師)

私たちが暮らす社会では、重大事件が起こったとき、容疑者の動機解明が報道の焦点になることが多くあります。しかし一部の少年事件において顕著ですが、ときにその動機解明は「心の闇」という脱出不能な迷宮にはまり込み、報道が私たちの不安あるいは敵意を掻き立てるだけのものになってしまうこともあります。

これは、避けられないのでしょうか。前回は1997年に発生した神戸・連続児童殺傷事件の報道を再検証することで、迷宮からの「迂回路」について考えてきましたが、今回はさらに広い視点から「迂回路」を考えてみたいと思います。

全国紙が覇権をもつのは「当たり前」なのか

今回行うのは、犯罪報道の国際比較です。

日本で過ごしていると、容疑者の動機解明が報道の焦点となること、また私たち自身が動機解明に好奇心を持つことはそれぞれ当たり前のように思ってしまうかもしれません。しかし、その「当たり前」を問い直してみることが今回の狙いです。

問い直しの素材としては今回も新聞をとりあげます。日本、アメリカ、イギリスにおける代表的な新聞をそれぞれ複数とりあげ、その犯罪報道のあり方を比較していきます。

分析する新聞については、次の5種類について各3紙ずつ、計15紙としました。まず日本の全国紙における発行部数の上位3紙(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞。読売新聞、朝日新聞は世界の新聞における発行部数の第1位、第2位でもあります)。次に日本のブロック紙の上位3紙(中日新聞、北海道新聞、西日本新聞)。最後に、日本の地方紙の上位3紙(静岡新聞、神戸新聞、京都新聞*) 。

ここまでは簡単なのですが、アメリカの新聞の選定は少し難しいところがあります。調査を行った2011年時点での最大発行部数を誇る新聞は『ウォール・ストリート・ジャーナル』ですが、これは経済紙です。犯罪報道は少なく、今回の分析資料としては適していません。

第2位は『USAトゥデイ』という全国紙ですが、日本とは異なり全国紙はアメリカではかなり少数派で、同紙をもってアメリカの報道の典型をみることは難しいように思います。そこで、地方紙中心のアメリカにおいて、発行部数の多い新聞が多く集まるニューヨークにおける部数上位3紙を選ぶこととしました(ニューヨーク・タイムズ、ニューヨーク・デイリーニューズ、ニューヨーク・ポスト)。

イギリスはさらに状況が異なり、当時最大の発行部数を誇ったのは大衆紙『The Sun』ですが、これはゴシップやスポーツ記事を中核とするタブロイド紙です。イギリスの発行部数上位4紙はタブロイド紙に占められているのですが、これらにおける犯罪報道の扱い方は日本でいうスポーツ新聞のそれに近く、日本の全国紙とは比較が難しいように思えます。

そこで、保守系高級紙『タイムズ』、リベラル系高級紙『ガーディアン』、発行部数の多いタブロイド紙の中でもゴシップ中心ではなく国内ニュースを扱う『デイリー・メール』の3紙を素材にしたいと思います。

ここまでの時点で既に、総合的な内容を扱う全国紙が覇権を握っている日本の状況が世界的には「当たり前」ではないことがわかると思います。よく言われることですが、各地の支社・支局に記者が散らばり、全国のニュースを拾い上げてくる全国紙の取材網を始め、日本の新聞報道には固有の特長が多くあるといえます。

では、具体的な犯罪報道のあり方についてはどのような違いがあるのでしょうか。

*国内外ともに、各紙の発行部数はABC(Audit Bureau of Circulations)調査協会『新聞発行社レポート 半期(2011年7月-12月)』による。
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