関東大震災の真実に涙が止まらない!
~90年間”抹殺”されていた「奇跡の物語」

全壊の横浜刑務所で何が起きたのか
牧村 康正
昭和30年ごろの隆祥館書店

この『典獄と934人のメロス』(以下『典獄』と表記)を発売1ヵ月半で130冊(2月28日現在で180冊)も売った本屋がある。売り場面積わずか10坪あまり、どこにでもある小さな町の本屋だが、じつは、どこにもない本屋さんでもある。

二村知子さんが経営する「隆祥館書店」は、今年の大河ドラマのクライマックスとなる大坂冬の陣で、真田幸村が難攻不落の「真田丸」を築いた城跡近くの谷町六丁目にある。

近隣のお客さんのみならず、電車に乗ってわざわざこの本屋を訪ねるお客さんもいる。本屋というよりも、店主の二村さんを訪ねてくるようだ。元シンクロナイズドスイミングの日本代表の二村さんの美丈夫ぶりに惹かれるだけではない。「二村推薦の本にハズレなし」、本の目利きとしてみなから頼りにされているようだ。

作家と親密な関係を築く活動にも取り組んでいる。デビュー作『永遠の0』がまだまったく売れなかったころの百田尚樹さんを招いて始まった『作家と読者の集い』は好評を博している。以降、「街場シリーズ」で大人気となった内田樹さん、原発問題に詳しい小出裕章さんなど、彼女がこれだ!と目を付けた本の著者を囲むこのイベントは、これまでに115回を数える。

『典獄』の著者の坂本さんもそのイベントに招かれた作家のひとりだが、いったい二村さんは、『典獄』にどんな魅力を読み取っていただいたのか――そんな坂本さんの問いかけからふたりの対談ははじまった。

左から二村知子さんと坂本敏夫さん

「教養と知への渇望は更生につながる」

二村刑務所の話だから、ちょっと私には縁遠い世界かなと思って最初は敬遠していたんです。でも読み出したらすぐに引き込まれて魂をゆさぶられるような感動でした。

今は人と人との信頼関係がどんどん希薄になって、インターネット上での<友達>なんて本当に友達かどうかもわからない。でも自分のことを本当に信じてくれる人だったら、自分も同じように相手を信頼する。そういうことを実感したから、こんな時代にこそ読んでいただきたい本やと思って、うちのお薦め本にしました。

坂本:ありがとうございます。

二村小さな本屋なんで、実話を元に書かれた小説好きな方などに、ぜひ読んでいただきたい感動作だと思ったら、あの人も、この人もと、お客さんの顏が浮かんでくるんですよ。名前をバーッと書き出して、そこからお一人お一人に自分が感動した箇所を説明してお薦めするんです。『典獄』でもすぐにお客さんの顔が浮かびました。

『典獄』でまず私が感動したところは、椎名さんが地方の監獄に赴任していた時の話です。そこの幹部たちは「看守に教育なんかいらん」と考えていたんですけど、椎名さんが看守を相手に監獄法の勉強会を始めたら、予想をはるかに超える反響で、向上心は生まれつき人が持っている特性だと感銘され、さらに学ぶ気風が自然と囚人たちにも浸透して「無知は犯罪を招くが、教養と知への渇望は更生につながる」と確信するんです。椎名さんは、「刑務所は人を更生させる場所」やと言ってますもんねえ。

一昨年亡くなった、前店主の父・二村善明さんと

坂本:そうですね。今の言葉では「更生」なんですが、当時の言葉に直すと「お国のために人材を育てる」ということでしょう。刑罰主義ではなく、教育刑主義の立場にたっていたんですね。

二村ふつうね、東大法学部を出られてたら検事にも弁護士にも裁判官にもなれるのに、自らすすんで刑務所へ勤めはるところがねえ。やっぱり国をよくしたいという気持ちが凄くあって、囚人になった人たちを更生させて、良い人間を作りたいという、気概があるというか、そこがなんか人として大きいじゃないですか。今こんな人いてはるんかなと。

坂本:いません(笑)。刑務所もまったく変わってしまいましたからね。今はただ預かっている期間中、つまり自分の任期中に、何事もなければいい、任期をおえたら後は知らないよ、という感じでしょう。

私が刑務所に勤め出したのは昭和42年なんですけど、当時は戦前戦中を知っている所長がいらした。ですから「獄舎にいる囚人も、官舎に住む刑務官も、まとめて一つの家族だよ」という意識が徹底していました。

私は、自分がまた小さい(幼稚園児の)頃、父の勤務先の、大井久さんという人が所長を務める豊多摩刑務所の官舎にいました。大井さんは椎名さんの一番弟子です。当時うちの親父は課長でしたが、大井さんは受刑者と一緒に官舎の奥さんや子供に映画を見せてくれたんです。

だから私なんか囚人の膝の上で『鞍馬天狗』なんかを見て拍手していたもんです。月に2~3回は上映会をやっていましたから、当時としては一般人以上に娯楽に恵まれていたかもしれません。そういう「刑務所一家」みたいな椎名さんの教えというのも、その頃までは着実に部下に伝わっていましたよね。

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