日本一の書評
2016年02月28日(日)

映画のプロット作りのために読む羽目となった「原作本」3冊

リレー読書日記・中島丈博

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〔PHOTO〕 iStock

映画制作のシビアな現況に驚愕

脚本家は概ねプロデューサーから或る企画の脚本依頼を受けて初めて仕事が成立するのであるけれども、企画と言っても局や映画会社の企画審査会を通過して確定しているものばかりとは限らない。これから提出する企画案のためのプロット作りを頼まれることもあり、それらは屡々無駄働きに終わることが多いのである。

そんな割の合わない企てに関わらなきゃいいようなものだけれど、永年付き合ってきたプロデューサーや昵懇にしている監督から頼まれれば無下にも断れないという事情もある。今回は比較的近い過去に於いて、プロット作りのために読む羽目となった原作本ばかりを並べてみようと思う。

団鬼六著『往きて還らず――すみれ館奇譚』は某監督からの依頼を受けて読んだのであるが、イギリス映画『鍵』の焼き直しだなと見破るのにそう時間はかからなかった。ウィリアム・ホールデン、ソフィア・ローレン共演、'58年キャロル・リード監督作品である。

ある部屋の鍵を兵士たちが次々と譲り受けて、そこに住む女と関係を持つという骨子は同じだが、さすが鬼六先生らしく出陣を前にした特攻隊員たちの世界に置き換えて、死とエロスのテーマを謳い上げている。とりわけ元宝塚女優という八重子の設定が面白い。

プロットではこの特異な設定を十全に生かす工夫をした。レビューはおろかジャズもシャンソンも歌うことを許されなかった戦争末期、春日野八千代主演の時局もの『翼の決戦』の公演を最後に宝塚は閉鎖される。

「宝塚は軍から憎まれてるんよ。特にあたしら男役には風当たりが強いんやわ」

と八重子は言う。特攻隊員が問う。

「どうして男役が?」

「この産めよ増やせよいう時代に、女の癖に男のなりして、女性フアンの憧れの的になってるいうのんが、軍には絶対、許せへんのよ。けったいな奴らや。女なら子供を産めいうことなんよ」

原作には存在しないそんな台詞をガンガン押し込み、役柄として成立するよう登場人物を造形し直して五十枚に余る詳細なプロットを完成させた。

監督が東映系の制作会社に持ち込み映画化の機運となったと思いきや、日本脚本家連盟の最低脚本料を遥かに下回る数字を提示されて腰を抜かすほど驚愕した。低予算であるので、これ以上は難しいと言われ、映画制作のシビアな現況に言葉を失った。監督には申し訳ないけれど私としてはプロットを取り下げざるを得なかった。

そんなわけでこの企画は宙に浮いたままだが、誰かが密かに映画化を画策しているやもしれない。

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